オランダで見てきたこと

6月27日、私は今年4回目の海外に旅立った。朝8時50分のフライトなので5時40分のバスに乗って行く予定だったのだが私の長男が親切に空港まで送ってくれた。それだけでも嬉しかったが私の乗る飛行機が出発するまでずっと空港の展望デッキで見送ってくれた。乗り込む時に手を振ってくれるとは・・・、かなり特別感を感じた。
今回もロンドン行きに乗り、ヒースロー空港で乗り継いでオランダ・アムステルダムまで行ったのだがなんと長い旅行だろうか。今回もウクライナ問題が影響して西に飛ぶことができず、アメリカ・カナダの上空を飛んでいったのでロンドンまで15時間かかった。アムステルダム・スキポール空港に到着した時は既に現地時間の夜10時。ドイツのパートナーであるFrank Ziermannが迎えにきてくれた。今回は彼と共にオランダ・ドイツを1週間旅することになっている。

翌日、我々は新規オープンしたクリーニング店を訪問した。名前はFornet、そう、中国で一番大きなクリーニングチェーンであるあのFornetである。なんとオランダにヨーロッパ一号店がオープンしたのだ。場所はAmsterdam Zuid(アムステルダム南駅)から100mのところ。ここは金融街と呼ばれており、比較的スーツなどを着る人々が仕事をしにくるところである。そこになんともおしゃれなお店ができたのだ。

ヨーロッパ1号店のFornet。
Amsterdam Zuid(アムステルダム南)駅が100mくらいのところにあった。絶好の立地!

 

オープンしたのは先週との事でまだ大々的なオープンというわけではない。しかし毎日近くで仕事をしている人々は「どんなお店だろうか?」と興味津々の様子だ。Fornetのビジネスモデルは元々ドライクリーニング機が1台にアイロン台で成り立った。イタリア型とも言えるし、フランスの5a Sec(サンカセック)と同じモデルとも言える。若干違うところはランドリーも受け付けるというところだ。ワイシャツだけではなく水洗い衣類、シーツ類など全般的に受け付けるところが違うところだろう。
しかし今までのクリーニング店と決定的に違うところは店構えと思う。とにかくおしゃれにできている。歴史的に考えても今までのクリーニング店は店構えを気にする必要はなかった。それまで人々はウール製品などのドライクリーニングを必要とする洋服ばかりを着ていたのでクリーニング店は店を通じたプレゼンテーションなど考える必要がなかったのだ。気にするところは工場を通じた技術力だったのだ。しかし時代は変わった。地球温暖化、変わりゆく洋服のトレンド、ドレスコードの消失などで人々は一気にドライクリーニングを必要とする衣類を着なくなってしまった。これからの時代は「如何にプレゼンテーションに力を入れられるか?」にかかっている。そうなると今までの原価率では対応できないだろう。もっと原価率を減らす努力、それは価格を上げるのか?コストを下げるのか?それはそれぞれの意思決定と思うが更に捻出する粗利をお店のイメージやプロモーションに注ぐ必要が出てくるのだ。

フロントカウンター。とてもきれいな空間で上品さを漂わせている。
オリジナルのアイロン台。工場は極めてシンプルにできている。

 

Fornetの訪問を終えて次に向かったのはMedo Cleanという会社。今までは単体でクリーニング店をやっていたのだがやはりそれだけでは持ちこたえられない、と判断。クリーニングの多角化に乗り出していたのだ。

Medo Cleanの外観。ここは完全に工場になっていた。


さて、多角化ってどうやるんだ?というのが最初に思った疑問だった。私が今までの経験値で話せる内容とするとWash & Fold(洗濯代行)やユニフォームの下請けなどだった。しかしMedo Cleanではもはや自家処理をするほどの洋服がなかったり、従業員がいないことで処理できないクリーニング店の下請けをやることが一つ、もう一つは販売チャネルを全くの異業種にお願いしていることだ。
まず最初の下請けであるが、これはある意味イメージできる。もはや自分たちで処理する体力がなくなってしまったところは数多いと推測する。Medo Cleanがそんなクリーニング店たちの後ろ支えするのはとても良い試みと私は思った。ただし、これを日本でやろうとしてもまだうまく行かないと推測する。なぜならば各店のオーナーたちが自分の品質価値を頑なに主張するからだ。大切なポイントかもしれないがこだわりすぎると何も協力できなくなってしまう。ある日本のクリーニング店の社長さんが私に似たようなことを提案してきたことを思い出した。その人は「圭介さん、自分でできなくなっているクリーニング店をご紹介いただけないか?私はそういう人々の役に立てるクリーニング店になることができる」と。その時も私は「現時点ではまだ現実的ではないのではないか?」と答えたことを覚えている。オランダではこういう協業ができていることを日本のクリーニング経営者はもっと学んでもいいのではないだろうか?

他社ブランドのフィルムを使っているので聞いている筆者。なかなか面白い取り組み。


もう一つのチャネルを異業種に展開することであるが、この会社ではスーパーマーケットにお願いしているらしい。日本でもインショップとして展開しているクリーニング店は多いが、ちょっとこちらの形態は違う。こちらではクリーニング店関係者は一人も従事せず単にロッカーをおいて置くだけで運営そのものはスーパーマーケットに委託している。しかしクリーニングのプロはお店には一人もいないので詳しい相談などはそのロッカーに番号が書いてあり、その番号にかけることで対応する、という仕組みになっている。このやり方だと国の法律でできる国とできない国があると思う。しかしオランダはできるということなのでその方法をとっている。最近はそれぞれの地域にクリーニング店が存在しなくなってきているのでこのようなスーパーにクリーニングサービスセンターがあることで人々の役に立っているとのことだ。一方でMedo Cleanではちょっと遠い地域であっても販売チャネルが出来上がっているので売上増につながるだろう。私は「どうやってこのようなネットワークができたのか?」と聞いた。社長のMichaelさんは「最初は先方からの問い合わせで始まった。この商売をやるには立地条件が大きく左右する。だから我々はここに会社を構えたんだ」と。彼の会社の位置はユトレヒトに一番近いが、アムステルダムやロッテルダム、ハーグなどもおおよそ1時間圏内にあるのでいろんな地域でコラボすることができるという。日本で同じことは簡単に成り立たないとは思うが、異業種にお店機能を任せるというやり方は考えてみても良いことかもしれない。彼らはそれだけではなくユニフォームの下請けなどもやっていていろんな方面から仕事を受けようとしているその姿勢が結果として忙しくしている理由と感じた。

ドイツの代理店(右)とMedo Cleanの社長(中)と筆者。とても興味ある訪問だった。

オランダの業界は日本よりももっと小さい。しかしこんな環境でも力強くやっている人々がいることを再確認してとても嬉しい気持ちになった。まだまだできることはある!見方を変えていくことが大切と思った。固定概念からの脱却ができる会社が残る!これはオランダでも同じだった。

恐るべし、ニューヨーク!

5月23日、今年2回目のアメリカ出張に出かけた。今回も成田からの出発であった。しかし2月と比べると人の数は全然多く、確実にビジネス客などが戻ってきているな、と実感できた。今回の目的はニューヨークを訪問することだった。アメリカのクリーニング業界全体としては世界と同じくダウンサイジングの一途を辿っているが、中流層から高級層においては完全に元に戻ってきている感じがする。どのような状況になっているのか、好調の元を調べに行きたかった。

5月24日、私はシカゴからユナイテッド航空を使ってニューヨーク・ラガーディア空港に飛んだ。アメリカでは既にマスクの着用義務がなくなっている。機内においても原則着用しなくても良いのだ。しかし自発的に着用している人も20〜30%はいただろうか。私はもちろん着用したがやはりこういう密室だと感染する確率も高いので気を付けたいところだ。それにしても日本とは全く生活習慣が違う訳だから驚くことばかりである。
到着したら、当社の東海岸の営業をやっているDarrenが私を待っていてくれた。早速二人でいくつかのクリーニング店を訪問した。ニューヨークではJeeves、Hallak、Maurice Garment Care、KingBridgeなどの高級クリーニング店を中心に多くのお店と良いお付き合いをさせてもらっている。しかし、今までご縁がなかったところで今回ご縁を頂いた会社がある。それはMadame Paulette、ByNextという会社が1年前に買収したクリーニング店である。詳しくはお話しできないが、あるプロジェクトから急接近する事になった会社である。いきなり面識を持てる機会を頂いたのでこちらもとてもワクワクしていた。

Madame Pauletteの外観。全くクリーニング店とは思えない綺麗な店だ。

 

Madame Pauletteはカーネギーホールからわずか200mくらいの所にある。カーネギーホールといえば数多くの有名なオーケストラやピアノコンサートを開く場所として有名だ。こんなニューヨークの一等地でクリーニング店の経営をやっていて本当に商売になるのだろうか?お店はとても綺麗でブティックのような装いだ。これをクリーニング店と理解できるのだろうか?と多くの日本人は思うだろう。日本のクリーニング店はお店に「クリーニング」という文字が入っていないと人々に認識されない、という不安から入れるようにしている事を多くの経営者から聞く。しかしこう言うお店はもはやクリーニング店ではなくMadame Pauletteなのだろう。ブランドとして認識されているのだろうな、と思った。
店内に入ってみるとカウンターがあったが、お客様が座れる椅子が3つくらいあった。こういう雰囲気は「大切なお洋服だからしっかり確認しながら丁寧にケアするよ!」と言われているような感じがした。高級な洋服が持ち込まれる訳だからこう言う雰囲気であるべきなのだろう。

カウンター。椅子が用意してありお客様とゆっくり話せる環境ができている。
お店にロゴ。しっかりブランディングされている。

 

やはり価格が気になる。聞いてみたところ以下のような価格だった。
ワイシャツ:$16.00
ブラウス:$32.00
ズボン:$32.00
ジャケット:$60.00
コート:$90.00
なるほど、このくらいの値段を取らなければマンハッタンの一等地でお店を出す事など出来るわけない。ちなみに翌日訪問したKingBridgeの値段も調べて見ると
ワイシャツ:$6.00、ドライクリーニング:$22.00
ブラウス:$22.00
ズボン:$19.00
ジャケット:$22.00
コート:$77.00

とこんな感じである。KingBridgeは場所が南部のBrooklyn地区なのでマンハッタンよりはお安い感じがするが、それでもニューヨーク価格と言えるだろう。やはりこれだけの料金をニューヨーカーは普通に払う事ができるのだからここに住んでいる人々の所得は桁外れといえる。

さて、話しをMadame Pauletteに戻そう。それにしてもお店が広い!!一体どのくらいあるのだろうか?と聞いたらざっと25,000スクエアフィート、日本の単位に直すとざっと700坪である。なんて広いんだろう!
奥へ進んでいくと応接ルームに大きな鏡が置いてある。ここでウェディングドレスなどのお直しに来たお客様と詳細を検討したり、できあがったドレスを実際に着てみて最終チェックをするような場所として用意されている。その後ろには数多くのドレスがスタンバイしている。こうなるとお店が「何を集めたいのか?」がはっきりしている。

奥の応接ルーム。ここでドレスのお直しをミーティングしたり出来上がったドレスを試着したりできるようになっている。
ソファーの裏には数多くのドレスが出来上がった状態でお客様を待っている。


そしてこの応接スペースの真上に階段で上がるとお直し工房があった。やはりお直しはショップにはなくてはならない分野なのだろう。ここら辺は日本の典型的なチェーン店とは全く違う。残念ながらタイミングが合わず、彼らのクリーニング工場を見学する事はできなかったのでどんなオペレーションをしているのか、を確認する事はできなかった。それでもこれだけの価格でクリーニング業を運営できるのは幸せとしか言いようがない。

二階にあるお直し工房。とてもゆったりしているスペースだ。

 

さて、高級店で一番大切なのは接客と思う。お客様を知ることはもちろんであるが、それ以上に洋服の事をよく知らなければならない。ブランドを知ることはもちろん、どんなお値段のするお洋服なのか、を認知していなければ正しい接客はできない。こう言うお店で働く人はある意味スーパーマンだ。先ほど書いた価格はあくまでも基本料金だ。ブランドの洋服となるとそれなりの金額を請求する事になる、というのが彼らの基本コンセプトである。
店員さんがそこまで一つひとつを覚えることができるのか?という質問に対して社長のKamさんが面白い事を言った。「まさか!これだけのブランドや価格をしっかり覚えている人はなかなかいないよ。僕だって覚えきれない。だからレジの力が要る。我々は独自のソフトを持っていてそこにブランドや洋服のタイプを打ち込むとすぐに価格が出てくるようになっているんだよ」と。これにはびっくり。しかし同時にとても理にかなっていると思った。仮に洋服のブランドや値段を知らなくてもレジの情報として既に登録されていればいくらのクリーニング料金にすべきか?を考える必要がないのだ。後は目の前にいるお客様に精一杯のおもてなしをしてあげられれば良いのだから店員は集中する事ができる。そのレジを実際に拝見する事はできなかったがこれは間違いなくお店のブランディングの一つの要因と言えるだろう。

恐るべし、ニューヨーク。ここはまさに通常の世の中とは全く違う空間である。夜はKam社長と営業マンのDarrenと3人で食事をしたがいろいろな話しで盛り上がった。ニューヨークのレストランもやはり値段がとても高くてびっくりしたがとても楽しい時間を過ごす事ができた。

イギリスの展示会

4月24日、私は4年ぶりのイギリス展示会に参加した。コロナ禍での海外初の展示会。一体どうなるのだろう?と思って会場にやってきた。会場はロンドン西部の郊外にあるAscot。イギリスで一番大きな競馬場である。日本でいったら府中競馬場だろうか・・・。やはりイギリスとなると王室が競馬を楽しむ習慣があるので会場にはいたるところに王冠がシンボルとしてついている。

イギリス最大の競馬場Ascot。こう言う場所での展示会も面白い!
三幸社のブース。新型シングルが全面に展示された。

 

今回の展示会では日本で発売した高速型シングルを新製品として紹介する事となった。もちろん、ボディサイズはイギリス用になっている。しかしこの大きさが実際は日本モデルのように俊敏に動かない。どうしてもコテが重いのだ。それは仕方がない。だとしてもこちらで60枚/時を越える生産性をたたき出すことはできる。それまでのシングルだと40枚上がれば十分と言われているのだから。ここにイギリスのワイシャツと日本のワイシャツの縫製の差がある。
イギリスのワイシャツで難しいのは前たて(Front Placket)に芯地が入ってなく、生地だけが織り込まれているのが多い。結果として裏側がミシンで縫製されていないので前たてのセットがとても難しいのだ。誰もがその部分をとても丁寧にセットする事になってしまう(私もイギリスのワイシャツをセットするときは同じ状況になる)ので時間がかかってしまうわけだ。
しかし最新モデルではそれまでのモデルの倍の速さでワイシャツを乾かしてしまう力がある。最近のワイシャツであれば10秒で仕上がる。通常であれば25秒はかかるだろうか・・・。それが半分以下の時間で仕上がってしまうわけだから生産性が上がるのは明白だ!いくら前たて(Front Placket)に時間がかかってもプレス時間で相当の生産性が上がる。問題はオペレーターのスピードである。こればかりはお店に託さなければならない。ここら辺がお客様との話し合いのポイントになるだろう。

10時に展示会がスタートした。しかし待てど待てど来場者が全くない。12時を過ぎた。2時間経っている。しかし全く誰も来ないのだ。流石に焦った。「この展示会は大失敗か?」と。しかし午後1時を境に多くの人々が来場してきた。正直ホッとした。結局、この日は最後まで来場者に恵まれた日となり、我々もとても忙しくする事ができた。

多くのお客様に来場いただいた。本当にホッとした。


やはり一番の目玉はワイシャツ仕上げ機である。この展示会場で我々以外でワイシャツ仕上げ機を出していたのはTrevilとBarbantiというイタリアのメーカーとBoweというドイツのメーカーである。Trevilはどうやらイタリアの巨大メーカーであるPonyの製品をOEMしている様な感じであった。詳細は定かではないが作り方、機械の動き方を見てもかなり似ているので間違いないだろう。Barbantiは昔からプレスする機械ではなく膨らます事で仕上げる機械となっている。ドイツのVeitをご存じの皆さんであれば想像は容易につくであろう。1985年くらいにVeitがBarbantiとOEM契約をしてVeitのワイシャツ仕上げ機をつくるようになってからBarbantiのワイシャツ技術が急速に発展したと言われている。ドイツは昔からワイシャツはプレスするモノではなく膨らまして乾かしながらソフトに仕上げる習慣がある。これは現在も強く支持されている。これがイタリアにもそのまま反映されている。
そしてBoweであるが、このワイシャツ機は我々がつくっているOEM機なのだ。今回、初めて自社ブランド以外の自社機を同じ展示会で出展することとなった。結果として、SankoshaブランドとBoweブランドのどっちのワイシャツ機の方が良いか?というYouTubeまで出現したのだからびっくりである。

https://youtu.be/nf1kpf1mp0M

イギリスはワイシャツ王国である。故にアメリカの文化がそのまま移植されていてアメリカと同じようなプレス文化がある。しかしドイツはVeitがつくった文化がそのまま色濃く残っており、プレスよりは膨らます文化が残っている。要はこの戦いなのだ。
今回Boweに提供しているモデルは昔、三幸社が1980年代につくったCN-550という前はプレスするのだが後ろはプレスしない、というハイブリッド型である。これを復刻してドイツバージョンにしたのだ。ちなみに最新のドイツ型はタックプレスも外してこよなく膨らます形に近くしている。しかし、膨らますだけでは時間がかかり生産性がとても低い。故に前だけは全面プレスにして前たて(Front Placket)やポケットなどはしっかり押してしまい、残りの部分は膨らまして乾かす、というスタイルを取っている。

結果としてはやはりSankoshaブランドが一番強そうだった。現在はSankoshaブランドがイギリスではトップブランドになっている、何よりも一番信頼される要因になるのは「耐久性」のようだ。イタリア製はどうも故障しやすい。これは使っている部品のせいだと思われるが1年もしないうちに壊れてしまうのは問題である。一方でSankosha製だとまず5年は壊れない。日本の皆さんからすると当たり前の話しかもしれないが海外ではこれは結構びっくりされる話しなのだ。壊れずに使い続けることができるのはお客様にとってとてもありがたい話しである。故にSankosha製はいつも話題の中心になるのであるが、一方で価格も安くない。そこに今回のBoweブランドのワイシャツ機が新製品として入ってきているのでこれからのマーケットがどの要に反応していくのか、がとても楽しみである。

イギリスのワイシャツは今までアメリカと同じような形であったが最近、どうもスリムカットのワイシャツがトレンドになってきている。それまで我々はアメリカモデルを基準にしたヨーロッパ仕様を販売してきたのだが、最近はそのボディサイズでは綺麗に着せることが出来ないものが多くなってきているとの事だ。こうなると現在のモデルではだんだん通じなくなってくる。ここら辺を敏感にしておくことも今後の販売においては重要なポイントとなる。

初日の晩は主催者による出展者のためのレセプションが行われた。この時期にマスクなしでこの狭い空間にこれだけの人であふれる場所にいたことがなかったのでとても躊躇した。しかし誰もがこの中で楽しんでいるわけだからもう仕方がない。腹をくくって楽しむこととした。

VeitのBoris、BarbantiのRobertoと一緒に
イギリスの代理店チームParrisianneと一緒に
ドイツの薬剤メーカーSeitzのJacopoと一緒に

この展示会では本当にいろんな人と久しぶりの再会をした。それぞれがとても苦しい2年間をすごしてなんとか会社を続けて来る事ができたのだな、と思えた再会であった。しかし皆が元気で良かった。競合メーカーももちろんいたがお互いに無事であることを心から喜び合い、これからまた一緒に切磋琢磨していく事を確認しながらその時間を楽しんだ。

3年ぶりのイギリス

4月22日午前6時、私は羽田空港のターミナル3(国際線ターミナル)に来ていた。3年ぶりのイギリスに行くためだ。羽田空港の国際線ターミナルにくるのもおおよそ3年ぶりだろう。どちらかと言えば成田空港から出発する事が多い私からすると随分と来ていない感じがした。2年ぶりのアメリカ出張をしてからはや2ヶ月。こんなすぐにヨーロッパに行くとは思わなかった。今回の大きな目的はイギリスで3年ぶりに開催されるCleanExというイギリスの業界展示会に参加するためだ。業界の展示会となると多くの関係者が集まるのでとても楽しみである。職業柄、立場上、いろいろなメーカーの経営者や役職者と仲が良い。彼らがこのコロナ禍をどのように過ごしてきたのか、また現在はどんな事を考えているのか、など聞きたい事が山ほどある。展示会は情報収集の一番適した場所になるので私にとってはとても都合の良い場所となる。

まずびっくりしたのは空港の手荷物検査。もはや腕時計を外す必要はないし、PCをバッグから出す必要もない。靴を脱ぐ必要もないので大きなトレーに荷物を置くだけで良い。昔のような仰々しい検査をされずに済む手続きでこれには大きな驚きを感じた。この2年間でこういうテクノロジーも進化したんだな、と感じた。
それにしても羽田空港もまだまだ人は少ない。2ヶ月前の成田空港に比べると政府の緩和策が手に取るようにわかるほど人が動き始めているのがわかる。しかしまだまだ人の動きは鈍い。6時台ではあるが私は出国審査を終えて早速出発ターミナルの端から端まで歩いてみた。これまたびっくりした。飲食店が全く開いていない。一つだけ開いていたやきそば・お好み焼き屋さんに人が列をつくっていた。私はJALのステータスを持っているのでラウンジに行くことができたが、権利のない人々は朝食を食べる場所さえない。人が動かないと様々な弊害が生まれることを改めて感じた。

乗り込むところ。ほぼ満席のフライトだった。

 

何とも長い飛行時間だった。今回はウクライナ侵攻の問題からヨーロッパ行きはそれぞれ迂回しながら目的地に飛んでいくのだが私の乗るJL043便はなんと東周り(正確には北回りと言うらしいが)で飛んで行く。アメリカ、カナダ上空を飛んでヨーロッパに行くなんて初めての経験だ。それでもイギリスに行ける事がとても嬉しかった。

今回の飛行ルート。ヨーロッパ行きで北米上空を飛んだのは初めて!


ヒースロー空港に到着。久しぶりのJimmyとの再会、ちょくちょくZoomミーティングはしていたがやはり直接会えるのはとても嬉しい。早速本日の目的地であるBasildonに向かう。まず最初に気になったのは人々がマスクを全くしていない事だった。こちらがマスクをしていると逆に怪訝な顔をしてくる人々。もはやイギリス人のコロナとの付き合い方が日本人とは全く違う。これでは自分もコロナにかかってしまうのではないか?と不安になってしまうが郷に入れては郷に従え、と言うことでもういいや!という気持ちでマスクを外した。2日後には展示会が行われたのだがその時の夜の出展社が集うレセプションでも相当密な状況にもかかわらず誰もマスクをせずに楽しんでいる光景を目の当たりにした。日本人である私には驚き以外のなにものでもなかったが、こんな状況に接して帰ってくると日本の水際対策はちょっと過剰じゃないのかな?と感じる様になってしまうわけだから本当に注意しないといけない。
それにしても懐かしい。Jimmyの奥さんであるYvonneや娘さんであるVictoria(Parrisianneで事務をしている)とも久しぶりの再会であったが昔話で一気に盛り上がった。

Jimmyのご家族との夕食。昔話しで盛り上がった。

 

4月23日、我々は早速、展示会場に向かったのだが途中で一軒のクリーニング店を訪問した。今回のイギリス訪問目的はいくつかあったがその一つは「市場リサーチ」であった。どうせ市内を通るわけだから一つくらい寄って欲しい、とお願いしたらこのお店を選んでくれた。その選んだ先は典型的な個人経営のクリーニング店だった。ロンドンにはこのようなクリーニング店がまだ何百件と残っており、三幸社として商売になるかどうかは別としてこの典型的なお店の運営状況を確認しておきたかった。

今回訪問したTouch of Class Cleaners。


ロンドンの個人店はもはや移民系クリーニング店として認知されている。インド人もしくはパキスタン人によって運営されているのがほとんど。アメリカで言えば韓国人といった感じだ。工場の中を見せてもらうとドライ機10kg(溶剤:K4)が1台と家庭用の水洗い洗濯機が1台、スチームキャビネットが1台に40〜50年前のホフマンプレス機が2台のみである。設備の更新はドライ機だけでその他のモノはほぼ何も変えていない、という状態である。気になる入荷点数であるが平均100点/日という感じである。ワイシャツや水洗いものはあまり入ってこない。たまたま私が訪問した時はベッドシーツやデュベカバーなどの仕上げをやっていたが仕上げをウールプレス機でやっているわけだからパリッと仕上がるはずもない。ここのオーナーさんに話しを聞くと「まだまだやっていける。だからドライ機は買い換えたんだ!あまり将来は悲観していない。」と答えてくれた。やはりロンドンはまだまだスーツなどは出るのだろうか。それにしても単価がおおよそ7ポンド。それを100点集めたとして700ポンド/日。これを週6日稼働で単純に4週/月、12ヶ月で計算するとおおよそ3300万円の年商ということになる。人を1〜2名雇ってもやっていく事はできそうだが決して潤いは感じないだろう。このくらいのビジネスは昔ながらではあるが人を誰も雇わずに一人でやれば儲かるのかもしれない。ただ今までの流れからは全く変わっていない。ドライクリーニングを主体にしたお店運営である。これからもっと水洗いの必要性が出てきたらこのお店はどうするのだろか?いろいろな事を考えながらお店を後にした。残念ながらここロンドンでも新たな取組を始めているところはほとんどない状態であることがよくわかった。本当に世界中の業界が次をどうするか?真剣に考えなければならないステージにあると確信した。

見よ、このプレス機!軽く40年以上は経っている。これが未だに現役で活躍している。

 

展示会場に到着した。既に設置がおおよそ終了していた。今回もこの競馬場の施設を使って展示会を行う。この取組は6〜7年前から行われているのだが競馬場でやるなんてなかなかユニークである。しかし会場側からすると競馬が行われなければ全く利用価値がない施設なのでこのような展示会に使ってもらえるのは嬉しい事なのではないだろうか。今回は新型のワイシャツプレス機が海外の展示会として初めて登場する。これらをみたお客様がどんな反応を示すだろうか?明日からの展示会が楽しみだ!展示会の展望を皆で話しながらその日の夕食を楽しんだ。

チームParrisianne(イギリス)とチームZiermann(ドイツ)で楽しんだ夕食。

2年ぶりのアメリカ(その3)

2月16日、午前中にZengeler Cleanersを訪問した私は午後にCD One Price Cleanersを訪問した。社長のRafiq Karimiに会うのはおおよそ2年半ぶりだろうか。年間に1度は必ず会っていろいろな話しをする仲である。それがこの2年半もの間、全く話しをする事ができなかったのだからお互いに現状がどうなっているのか、は全くわからない状況だった。久しぶりのCD One本社。冷たい雨がしとしと降っていたが幸い雪にはならなかった。Rafiq社長が迎えてくれた。こちらはZengeler Cleanersとは全く方向性が違うのでどんな現状になっているのか、話しを聞くのがとても楽しみであった。

ここでCD Oneという会社がどういう会社か、簡単にお伝えしよう。この会社は2001年にシカゴで創業した比較的新しいクリーニング店だ。元々はテキサス州ヒューストンでこのビジネスモデルを経営していたのだが、2001年にシカゴに場所を移動している。当時から明朗会計のクリーニング店として多くのサラリーマンに愛用されている。価格はワイシャツとそれ以外、という2つの価格ですべての洋服を対象にしているのが特徴である。現在はシカゴに34店舗、ミネソタ州に1店舗を構えている。

CD Oneの外観。青と白の基調色でデザインされている。


店舗を見るととても面白い。すべてがユニット店になっている。カウンターから工場のオペレーションが見える様になっており、オープンキッチンレストランのような雰囲気である。店舗の大きさは出店地域により様々であるが、比較的小さなお店でもレジは3つ、大きい店舗だと5つもある。すごいのは売上でどのお店でも単体で年間1億円以上の売上を上げる店舗ばかりだ。従業員の仕事も店舗と工場の担当役割がとてもはっきりしていて、低価格であっても顧客満足や品質管理にはかなり気を遣っている事がうかがえる運営方法である。このビジネスモデルは日本でも大いに参考になるモデルと私は考えている。ちなみに2015年に行われた大阪での国際クリーニング会議IDCにもスピーカーとして登壇してもらい、彼らのビジネスモデルについてじっくりお話しいただいた先でもあるのだ。現在はワイシャツは$1.89、その他すべての洋服が$3.99となっている。地域によって多少の値段差があるようだがおおよそこのくらいの値段になっている。

カウンターからみた店舗内。後ろが工場になっていて主に仕上げ作業を見ることができるようになっている。

 

価格はこんな感じ。このお店ではワイシャツ以外は全部$4.49という価格になっている。Wash & Foldは$1.69/ポンドからのスタートとなっている。

 

そんな会社がこの2年間どんな状況だったのか、私はとても興味があった。業績から聞いてみるとZengelerと同じように2020年は80%の売上ダウンを余儀なくされたようだ。ロックダウンを敢行されるとどんな業種でもどんな客層でも売上は全く上がらなくなるのだな、と痛感する。故に2020年夏から1年間は大変な思いをしたそうだが、2021年の第4四半期ではコロナ前の売上の80%レベルまで回復したとの事だ。アメリカでは2021年3月くらいから国民へのワクチン接種積極策が功を奏したのか、少しずつすべての業種で業績が回復している。CD Oneも少しずつ戻ってきたそうだ。
しかしその売上構成を見てみるとコロナ前とは明らかに違うもので売上が上がっていたのが気になる。例えばゴルフ場のレストランで使うテーブルクロスやナプキン。これらは今までであればゴルフ場の中で処理されていたもので人を雇って洗濯されていたと言う。しかしこのコロナで固定費を払えなくなり、あえなく外注する事になったと言う。その下請け先がCD Oneと言うわけだ。そのほか、消防士や警察官のユニフォームもこのコロナ禍でかなり集まったという。別のジャンルでいうと家庭の毛布やタオルなどのいわゆるComforterというジャンルが結構集まったと言う。

しかしリモートワークという新しい働き方はクリーニング業に大きな影響を与えている。CD Oneのようなサラリーマンを相手にした商売は影響をもろに受けた業種であろう。既にRafiq社長はクリーニング業がコロナ前の水準には戻らないだろうと予想し、新しい試みを始めていたようだ。それはWash & Fold、洗濯代行業だった。実は彼らがこのWash & Foldに力を入れていたのは私も知っていた。実際にコロナ前に訪問した時、彼らは既に取組を始めていた。ただその時はまだ導入期であり、どこにニーズがあるのか?どんなやり方だとボリュームを稼ぐ事が出来るのか?などわからない事ばかりでいろいろ模索していた時期だった。現在では既にモデルができあがっており、ボリュームを集める事に集中できる体制が整いつつあった。
Rafiq社長はこのWash & Foldに大きな確信を持っていた。やはり試行錯誤しながら数年間取り組んできた経験が自信につながっているようだ。私はこのビジネスの要諦がどこにあるのか、を知りたかった。私が一番びっくりした事は彼らが外交サービスを始めていることだった。彼らのビジネスモデルは日本と同じような多店舗展開である。基本的にお客様にお店まで来てもらい、洋服の引き取りや受け渡しをする形態になっていた。ところがこのサービスを進めるにあたり、外交サービスを始めることとなったそうだ。何故か?実は家庭洗濯用の洋服は結構量がある。それをお店まで持ってくるのは一苦労だそうだ。しかもプライベートな洋服も含まれているのでそれらを店頭に持ってくる事は抵抗がある、とも言われている。外交サービスだと取りに来てくれるので気兼ねなくお願いする事ができる、というわけだ。
気になるお値段であるが1ポンド$1.69で最低$10は課金されることとなる。ということは最低5.9ポンド分は持ってきてくれないと割高になってしまう。$10以上であればどんな量でも持ってきて構わない事だそうだ。ただCD Oneが求めているのはサブスクリプションサービスを利用するお客様を増やす事だと言う。ここでのサブスクリプションサービスは$99/月で週1回の利用となっている。通常の外交サービスでは$4.99の外交費用が課金されるが、このサブスクリプションサービスを利用するとこの$4.99はかからない。このときにWash & Foldだけでなく通常のクリーニング品のお願いを一緒にすることもできるようになっている。現在、このサブスクリプションサービスに700名以上のお客様が契約していると言うことでこれからもその会員数は増えていくだろうと見込んでいる。最終的にCD OneはこのWash & Foldビジネスで全体の50%の売上シェアに持って行こうと考えている訳だから今後の活動を引き続きチェックしていきたいと思う。

Wash&Foldの洗濯機は右から3つ。

 

乾燥機はこの4つで運営している。

 

今回のCD Oneは大きな方向転換を図っていたことがよくわかった。やはりドライクリーニングの需要が多く残っているアメリカにおいてでもこのような方向転換を図らないと生き残る事が難しいと思い、既に明確な方向を打ち出して突き進んでいる事に大きな衝撃を受けた。日本はアメリカよりももっと厳しい状態に陥っている訳なので打ち手を見つけられていない皆さんにおいては一日も早く次の方向性を見つけることを強くお勧めしたい。日本にはアメリカの様なお金持ちがいない。ドライクリーニングがなくなるとは思ってはいないが商売の核にはならなくなるだろう。そうなったときに何で生きて行けば良いのか?を是非考えていただきたいと思う。このWash & Foldは間違いなく日本でも一つのモデルになるだろう。ただし、厚生労働省の消毒法の基準をもう少し考え直してもらいたいものだが・・・。

2年ぶりのアメリカ(その2)

前回のコラムでは2年ぶりのアメリカ出張の様子をお知らせした。特に物価の高騰についてはリアルにお知らせしたが、今回はそんな環境下でアメリカのクリーニング店はどのように変化しているのか?についてお知らせしたい。

2月16日、私はシカゴの子会社であるSankosha USAに顔を出してからすぐにZengeler Cleanersに向かった。社長のTom Zengelerと会うためである。彼とはもう10年の仲であるが、彼の会社を一人で乗り込んだ時の事を今でも鮮明に思い出す。彼と仲良くなってから全てSankosha製品に乗り替えてくれただけでなく、多くの友人達にSankoshaを紹介してくれた。多くの白人系のクリーニング店に販売できるようになったのも彼のおかげと言って過言ではない。

久しぶりの訪問。お店の見栄えは2年前から変わっていない感じがした。Tomと感動の再会!変わりはないようだ。良かった!お店を見せてもらってから彼の事務所へ移動し、いろいろ話しを聞かせてもらった。

Zengelerの本店。見た目は全く変わっていなかった。
Zengelerのルート車。アメリカの車はデザイン豊かでカッコイイ。
工場のダブルボディ。暑さ対策でクールカーテンを設置していた。

 

まずこの2年間がどうだったか?を聞いた。日本では30%近くの売上ダウンで皆さん大変な思いをしたことを覚えているが、こちらではなんと80%の売上ダウンということで日本の下落率とは比較にならないひどさとの事だった。理由はロックダウンを敢行されていたからだそうだ。日本の緊急事態宣言よりももっと厳しい規制がかかっていたので人々が外出することを全く許されなかった訳だから売り上がるはずがない。そう考えると日本はやはりある意味恵まれていたのかもしれない。
昨年の3月あたりから少しずつ元に戻り始めたという。あのときはワクチンが開発され、アメリカではいち早くワクチン接種が進められたから、という時期だった。アメリカ政府のワクチン接種奨励活動は経済に大きな恩恵をもたらした、というわけだ。一方で物価の高騰が大きな影響を与えたらしい。Zengelerでは2020年の年末から2022年1月までの間に4回の値上げを実施したと言う。1回の値上げ率は大きくないが、おおよそ1年の間に4回の値上げを敢行しなければならなかったのだ。そのくらい物価がどんどん上がり、1回の値上げではとてもカバーする事ができなかったらしい。すごい話しだ。日本で1年間に4回も値上げを実施する事ができるだろうか?我々のメンタリティではあり得ない事だ。あまり具体的な価格の話しはここでは控えさせていただくが、ワイシャツだけ敢えて言っておくと現在の為替水準でおおよそ520円(税込み)である。これでもしっかりワイシャツが出てくるわけだから日本とは大違いである。

Zengelerは8店舗を持っており、それを4つの工場でまかなっていた。しかしこのコロナで売上は大きく減り、2つの工場が閉鎖に追い込まれた。それまで100名以上いた従業員が現在は50名を下回っているとの事だ。仕方のないことだとしても悲しい現実である。しかし、本社の位置する所はシカゴの北部North Brookという地域にあり、とても裕福な人々が生活している場所である。そこに160年以上の歴史を刻んでいる老舗クリーニング店が君臨し続けている訳だから富裕層を中心に多くの人々に使ってもらっている。ここにZengeler Cleanersの成功要因があったのだ。Tom社長は言う。「多くの重要顧客は我々がいくらでクリーニングサービスを提供しているか?なんて考えていない。価格を気にするような人は我々のサービスを使っていないだろう」と。ここで改めて確信した事は「クリーニング業は富裕層を相手にする商売である」と言うことだ。現在の売上はコロナ前(2019年)の売上に対して20%ダウンで推移している様だが、価格を気にしない顧客で固められているから現在の売上水準もあるし、そもそも利益率が高いのだ。

故に彼らは洗濯代行(Wash & Fold)には全く興味がないようだ。そもそもこのような富裕層は基本的にメイドなど雇っているようで我々が敢えて踏み込むところではない、というのだ。その代わりもっと高級クリーニングのイメージを強くして家では洗えない洋服のドライクリーニングサービスに力を入れていきたい、というのだ。まさに一つの論理と言える。

ただ彼らにも課題は山ほどある。一番取り組まなければならない問題は「人件費の高騰に際してどれだけ省人力で現在の量をこなす事が出来るのか?」である。白人系で街の一番店はとにかくダブルボディが大好きである。ダブルボディを一人で使わせているクリーニング店もあるくらいだ。ここにはエゴも多少あるようで「シングルボディ=個人店」「ダブルボディ=大きいクリーニング店」という概念があるらしい。Zengelerの本店工場も現在はダブルボディを2セット使っているのだがこれからはもっと省スペース、少人数での工場運営を積極的に考えて行かなければならない、と考えているようだ。日本では既にLP-5000高速型シングルが発表されているが、アメリカでは今年の7月末に開催されるClean ShowにLP-5600高速型シングル(アメリカサイズ)が発表される予定である。アメリカでは既に一部の顧客に販売を開始しているが、知名度はまだまだなので本格的にはその7月の展示会で知られることとなるだろう。私はTomにこの話しをしたら大いに興味を持った。

これは余談になるが私が帰国して1ヶ月後には持っていたダブルからシングルに入換えを決定したとの報告が入ってきた。嬉しく思ったが当然と言えば当然だろう。人件費に土地代が予想以上に上昇しているのだ。これからの10年を利益ある活動にしていくための投資なのだ。彼は時代を読み、この事業を更に続けていく覚悟の上で行っている投資なのだ。間違いなく彼は残っていけるだろう。我々の使命は彼らの様なクリーニング店が生き残れるような役に立つ機械を作っていかなければならない。これからワイシャツだけでなく他の洋服に対する高生産型モデルを作って行かなければならない、と思った。

さて、彼らは更に高級クリーニング店としての存在価値を高めていくことを決意していた。そのために一番必要なことは「ブランドを知る」事と「カウンターに立つ店員の知識向上とその対処方法」である。高級クリーニング店は世界のトップブランドを知らなければならない。KitonやBrioniなどスーツだけでなく婦人物においてもいろいろ知る必要がある。私がBrioniとつながりがあるのを読者の皆さんはご存じの事だと思う。例えばBrioniのボタンを取り付けるのに最後に糸を何回回して取り付けるのだろうか?答えは8回なのだがこんな事を知らないとその洋服を確実にメンテナンスする事はできない、というわけだ。このようなクリーニング業をCouture Cleaning(クチュールクリーニング)と名付けられている。この道のりは簡単ではないと思う。しかし彼らはできるだろう。

Tom社長と一緒に記念撮影。久しぶりの再会でとても有意義な話しが出来た。

 

アメリカの潜在市場はすごい!やはり「お金持ちが多いとクリーニング業は成り立つ」という論理は間違いないなさそうだ。Zengelerの今後には注目し続けたい。次回は同日に訪問したCD One Price Cleanersの訪問を紹介したいと思う。

2年ぶりのアメリカ訪問

2月14日、私は2年ぶりに成田空港に来た。最後に成田空港に来たのは2020年3月9日、ニューヨークにお客様をお連れした時だったのですっかり空港のレイアウトなど忘れてしまっていた。今回、飛行機に乗るためにはアメリカ政府からの要請で出発の24時間以内にPCR検査を受けて陰性証明書を持っていないとチェックインできない、という制限がある。成田空港にPCR検査センターがあると言うのでそこで受ける事となっていた。しかし検査から証明書発行までに3〜4時間かかる、と言うことから私は朝2時過ぎに家を出て4時の予約でPCR検査を受けたのだ。証明書を頂くまではどこかで過ごさなければならない。開いているお店は吉野家だけ。こんな朝早くから牛丼食べて4時間も過ごせるはずもない。仕方なく到着ロビーの開いている席で時間を潰すしかなかった。
午前8時にようやく陰性証明書をもらい、チェックインカウンターへ向かった。残りの書類も全て準備しており、チェックインを無事に済ませることができた。そこから久しぶりのJALのラウンジに向かった。中を見たらすっかり様変わりしているではないか。感染対策がしっかり施されているのと非接触アプリで食事などの注文をできるようになっており、安心を提供するためにいろんな工夫をこの2年の間でやってきたのだな、と改めて感じる。ワインなどは自動サーバーで提供するようになっている。これは確かに安全だとは思うが何とも味気ない。
それにしてもなんと人の少ない事か!ラウンジにも20〜30人くらいしかいない。寂しい限りだ。出発便も昔の様な便数もないので無理はない。63番搭乗口からだったのでラウンジからゲートに向かって歩いた。ほとんどのお店が閉まっている。まるでゴーストタウンだ。これがコロナ禍の航空事情なのだろう。多くの仕事がなくなってしまっている。一日も早くコロナが収束に向かい、多くの人々が自由に海外渡航できる状況になってくれることを心から願った。

成田空港のショッピング街。まさにゴーストタウン。

2年ぶりの国際線。胸が高鳴る。この飛行機に乗ったらアメリカに行ける。11時間のフライトであったが全く長く感じなかった。飛行機はボーイング777-300。JALが保有する一番大きな機材だが乗っていたのはたったの30人。これもまた悲しい現実である。機内で客室乗務員の方々とお話しをしたら彼女達はアメリカでの滞在中にホテルから一歩も外に出ることが許されていないらしい。帰りの飛行機まで部屋から出ることも許されず、食事も部屋で一人で食べなければならないという。こういう現実を聞かされるとどんな仕事でも大変なのだな、と脱帽してしまう。少々の不便で文句を言っている場合ではないのだ。

こんなにワクワクしたフライトもない。一番で乗り込んだ。
機内から撮ったシカゴの街。ミシガン湖はまだ凍っていた。


シカゴに着いた!JALの現地係員の皆さんとも2年ぶりの再会。思わず大きな声で再会を喜び合った。やはり知り合いとの再会は本当に嬉しい。到着ロビーでは先にシカゴ入りしていた梅谷専務に迎えに来てもらった。二人で久しぶりのSaknosha USAを訪問する。既に現社長であるWes Nelsonさんが会社に来ていた。彼とはTV会議でいつも会っていたがやはり直接会うと感慨深い。思わず抱き合った。ホントに嬉しい。続々と現地スタッフが出社してきた。みんな元気そうだ。本当に良かった!皆が元気そうな姿を見れただけでも今回わざわざ来た甲斐があった。

皆で事務所でパーティー。久しぶりに皆に会えて感慨深い。

 

さて、本題に入ろう。まずシカゴに入って感じた事は物価の上昇だ。びっくりする程の上昇率である。ガソリンが4ドル/ガロンまで上がっている。1ガロンは3.785リットルなので現在の為替($1=115円)で考えると121.53円/リッターと言うことになる。この数字を見ると「なんだ、日本より全然安いじゃないか!」と感じる読者がいるだろう。しかし、私が最後に訪問した2020年2月の時点では$2.50/ガロンだったのでびっくりだった。私は今回の訪問でゴルフクラブを買って帰ろうと思っていた。アプローチ用のクラブを数本買おうと思っていたのだ。私は左打ちなので日本にはあまりラインナップが揃っていないのに対してアメリカではとても豊富なのだ。しかも価格はこちらの方が断然安い!コロナ前で大体$120/本だったので楽しみにしていた。しかし現在の価格は$150〜160とざっと20%以上の値上がりをしていたのだ。

シカゴのガソリンスタンド。2年前は$2.50だったのがもはや$4.00。すごい高騰だ。

 

最後はレストランの価格を紹介したい。御覧の方々と食事をしたときの事だ。右から2番目がZengeler CleanersのTom Zengeler社長、真ん中がCD One Price CleanersのRafiq Karimi社長である。シカゴを代表する2つのクリーニング店と一緒に食事できたことはとても良かった。彼らの事情については次回のブログで紹介しようと思っているのでお楽しみに。
とても楽しく食事はできたのだが価格をみてびっくりした。私はこのステーキを頼んだ。さて、これがいくらだったと思うか?これは14オンス(おおよそ400g)の熟成アンガス牛のサーロインステーキなので一応高級ステーキではあるのだが、税金、チップを含めるとなんと8800円なのだ。このように全ての価格が信じられないくらい値上がりしていた。

久しぶりの会食。本当に充実したお話しができた。

 

とても美味しかったアンガス牛のサーロインステーキ。しかし価格にびっくり!

 

この要因の一つになっていたのは人件費である。現在、シカゴのあるイリノイ州の最低賃金は$12/時だが2024年までに$15/時になると言われている。しかし実際は$20/時の求人広告が多い。たまたま私がシカゴに到着したときのゲートがTerminal 5なのだがその到着ロビーにポップコーン屋さんがあった。そこでの求人広告が$20だった。後にCD OneのRafiq社長とお会いした際に人件費の件で話しを聞いたところ「$20の時給ではなかなか集まらない」と言ってた。なんと言うレベルだろうか?これがアメリカの現状なのだ。

こんな賃金の高い国でクリーニング業は本当に成り立つのだろうか?どうやって成り立たせているのだろうか?これが今回の私の最も知りたい内容になっていた。次回のブログで先に紹介した2つのクリーニング店にフォーカスを当ててご紹介していきたいと思う。

CLV21東京展示会に向けて

新年を迎えてもう1ヶ月が過ぎようとしている。今年初めてのブログであるが残念ながら面白そうなネタはなかなかない。JCPCが共同主催していた2月3日の名古屋勉強会も新型コロナウィルスの影響で中止となってしまった。こうなるとネタは2月3日からスタートするCLV21東京展示会くらいしかない。三幸社はTOSEI、AQUAと並んで最大ブースを構えて出展することにしている。といっても15コマだから大して大きくないのだが・・・。今回はその中身を少々紹介しようと思う。

今回のテーマは「省人力」「ランドリー化」「シルバービジネス」の3つである。省人力はもはや説明の必要はないだろう。昨今、上がり続けている人件費をまかなう事が難しくなってきている。それまでは人を雇い、多種多様の洋服に対して人間力で品質をカバーしてきた訳だがこれからは同じ人数で同じように対応しようとするとなかなか利益が出なくなる。そこでより自動化を求めてくる傾向にあると考える。次のランドリー化については最近の私のブログにもあるように地球温暖化からやってくるウール製洋服の減少に対してどうやって売上をカバーするのか?と言うことだ。我々はそれをランドリー衣類でカバーすべきだ、と提案しようと考えている。そして最後のシルバービジネスだが、今後特化していかなければならないのはお年寄り向けサービス業に関わる事の出来るモデル開発と考えている。具体的には介護事業だろう。

そんなところから展示会場には7機種の新製品を展示することとしている。

  • 高速型シングルワイシャツプレス機・カラーカフスプレス機(省人力)

2020年10月に発表したシングルなので新製品とは言い難いが発表してから一度も展示会で実機をお見せしたことはないので敢えて新機種扱いとした。今回の開発に関して社長も私も全く関与していない。「究極のワイシャツプレス機とは?」と題して社内にプロジェクトチームを作り、そのメンバー達がアイデアを駆使して開発されたものだ。今回からボディ内側から蒸気を出していたスチームインジェクション機能を外した。そして熱風温度を上げるために一つだったラジエターを二つに増やして乾燥時間を速くしたのだ。これにより生産スピードが従来機に対して1.5倍になった。それだけではない。スチームインジェクションを廃止した事でうるさかった音が10デシベルも下がった上になんとスチームを吹くよりも熱風温度を上げた方が仕上がりがとても良くなったのだ。これには驚きを隠せなかった。音が小さくなり、品質が上がって生産性が上がるなんて夢のような機械だ!それに併せてその熱風を40%もリサイクルする仕組みもできたので環境に優しく、燃費もかなり下がった。
またカラーカフス機もこれに合わせて新型を開発した。形は相当変わった。まずはプレス時間がなんと20秒でよくなった。昔のカラーカフス機で綿100%を押すと40秒は必要だっただろうか?通常の1.5倍の乾燥速度になったのだ。そして半袖のプレス方法が変わり、従来よりも綺麗に押せるようになった。このワイシャツセットを見に来るだけでも十分に価値があると思う。

  • ノンプレスフィニッシャー(省人力・ランドリー化)

これは既に前々回くらいのブログで開発経緯についてもお話ししたと思うのでコンセプトについてはご理解いただけたと思う。まだご覧になっていない方々はバックナンバーを是非ご覧頂きたい。肝心な仕様であるが今回は展示会場がとても冷えている事を考えて低速の150枚/時で運営しようと考えている。ただフジ型ワイシャツプレス機を二人立ちでやろうとするとかなりの忙しさになると思うがこのノンプレスでの二人作業はかなりゆったりと作業できるだろうと予想する。ここには洗い方や使用する洗剤においても条件が出てくるのでそこら辺を是非現場で確認してもらいたい。

  • オートフォルダー(省人力・ランドリー化・シルバービジネス)

三幸社で初めて私物洗濯用の自動たたみ機を開発した。日常着るシャツやズボン、パジャマ、タオルなど比較的薄めの素材で構成される大体の洋服をこれ一台で同じ大きさにたたんでしまうことができる。これから日本では労働者不足から家庭の主婦の戦力が不可欠になってくる時代を迎えるだろう。こうなると扶養控除制度が無くなる可能性も考えられる。そんな時代を迎えてから考えるのでは遅すぎる。今のうちから家庭洗濯の外注化が考えられる時代になる事を想定してサービスの確立を考えるべきではないだろうか?ちなみに平均たたみ枚数は6〜7枚/分と思う。たたみサイズを均一化し、その生産性を高めることを考えるとこのような機械は必要になってくるし、なによりも省人力でこなすことができるので是非実機を見て今後のビジネス展開の一角として考えてもらいたい。

  • 集合包装

SDGsから関心の高くなっている廃プラスチック問題であるが、現在クリーニング業界に特別なタスクは課せられていない。しかし、地球環境保護においては我々も一緒に考えて行かなければならない時代になったのは事実である。そこでアメリカ市場で既に行われている集合包装を今回皆さんに紹介したいと思う。使用するフィルムは700〜720mm幅と流通している600mm幅から相当大きくなっている。しかし、ワイシャツは最大4〜5枚までまとめて包装出来るだけでなくスーツなどドライクリーニング衣類も2〜3着をまとめて包装する事ができる。フィルムの使用量を大きく削減する事ができるだけでなく地球環境保全に配慮している、という事業者としての配慮をこれでアピールする事ができる。会社のコストを下げることができるだけでなく先進的な活動をしている事と人々に評価される訳だからやった方が良いと思う。
ただ、一つネックになる事は「包装とソーティングのプロセスが逆になる事」である。それを各工場がきちんと考えられるかどうか?である。せっかくフィルム代を安くできたとしてもソーティングの部分で余計な人件費などがかかるようでは意味がない。それぞれの工場で事情も違うだろう。ゆえにもし興味があるならば一度相談に来てもらいたい。メリットとデメリットの両方をしっかり伝えた上で話しを先に進めるか、それとも辞めるか、を考えれば良いと思う。いずれにしても行動に移す場合の機材は揃っているので是非ご検討いただきたい。

  • 新型人体・新型パフ

唯一のドライクリーニング関係の展示品である。決してドライクリーニング関連に力が入っていない訳ではないが、なかなかドライクリーニング関連での省人力化は難しい。と言うことで今回はそれまでの最新モデルであったDF-200Jに対する一部のお客様から不満のあった風量不足を解消するために対応モデルDF-250Jを開発した。
そしてもう一つは新型パフであるが昨年、某パフ老舗メーカーが廃業した事から今後パフを製造できる会社は三幸社だけになってしまったことから元々の構造を見直し、「Fine Steam」と名付けてそれぞれのパフを開発した。
どれも道具としては一見の価値があるので是非ご覧頂きたいと思う。

以上、今回は5つのカテゴリーで紹介したが、全て新製品である。昔から製造しているモデルは一台も出ていないのだ。この2年のコロナ禍においても製品開発し続けた結果を是非ご覧頂きたいと思う。

不幸にもオミクロン株の猛威で多くの都道府県ではまん延防止措置が発令されている。「できれば展示会に行きたかったがとてもじゃないけどこの状況では行けない」と落胆されている皆さんに朗報がある。今回は展示会場でYou Tubeのライブ配信をしたいと思っている。三幸社では当社製品を詳しくお届けできるライブ配信を考えている。そして私自身もこの「圭介のクリーニング紀行」としてのライブ配信をお届けしようと思っている。内容は展示会場全体を練り歩き、私が気になったメーカーの商品や新製品などを一緒に紹介しようと考えている。そこから見えてくる業界の将来は何か?を私なりに紐解いて行きたい。日程は改めて報告したいと思うので是非ご期待いただきたい。

2021年を終えて

皆さん、こんばんは。

日本はもうすぐ2021年が終わります。今回はコラムではなくメッセージなのでちょっと文体が違いますがご容赦ください。今年もコロナで始まりコロナで終わりました。人々の動きは大きく制限され、経済活動がほとんど許されない一年となりました。日本は国民性でしょうか・・・、手洗い、うがい、マスク着用などを徹底していたおかげで世界で一番感染率の低い国になっていました。現在、オミクロン株が少しずつ日本を巻き込んでいますが世界の感染状況を比べると比較にならないほどの感染率になっています。これは日本人としてとても誇らしいところです。

2021年はアメリカから劇的に回復しました。やはりクリーニング業は富裕層のビジネスなのか?と思わされるくらいアメリカの市場が3月くらいから急に動き出しました。確かにコロナワクチンが最初に全国民に供給された事が主な要因になったのは事実です。2回のワクチン接種が世界で最初に行われた事で国の経済活動が世界で最も活発になったのだと思います。三幸社はこの社会現象により業績が一気に回復していきました。

しかし2021年は世界の市場が密接につながっている事を改めて思い知らされた年でもありました。材料や機械製造に使う部品が手に入らないだけでなく購入価格が高騰しました。そして完成した製品を海外に送るコンテナが想像を越えた高騰しました。例えば東京からアメリカ現地法人のあるシカゴまで40フィートコンテナが通常は50万円程度です。それが最高で250万円で送った事がありました。300万円まで値がついたのですがさすがにこれは使いませんでしたが・・・。世界の需給のバランスがここまで崩れているのだ、と思い知らされた一年でした。

クリーニング業は大変な時代を迎えています。特に日本の業界は大きな転換期を迎えたと言っても良いでしょう。地球温暖化からのドライクリーニング衣類の減少、ドレスコード希薄からのスーツやネクタイの減少が大きな要因と思います。これからは水洗い衣類を積極的に取り込み、それを効率よく洗って仕上げるシステムを構築しなければ売上確保は難しくなるでしょう。

ただ私が最も気になるのは「どうやって水洗い衣類を集めることができるのか?」です。これはまだ私にもわかりません。しかし集めなければ事業としてはやっていけないと思います。それをどうやって集めるか?それが2022年の大きな課題と提案いたします。私も自分の事のようにこれを考えて行きたいと思います。

工場については既に考えがありますし、みなさんにご紹介できるモデルを2月のCLV21東京展示会で紹介しようと思っています。故に是非2月の展示会場にお越しください。それだけでなくこの時代に合った旬な新製品を数多く出品いたしますのでお楽しみに!

最後になりましたが、1年間お付き合いいただきありがとうございました。11月には少々炎上した投稿をしてしまいました。不快に感じられた一部の皆さんには心からお詫び申し上げたいと思います。来年も一緒に考え、皆さんに有益な情報を提供できるように活動していきたいと思います。

来年も宜しくお願いいたします。

我が社が開発しているトンネル仕上げ機

まずはいつもの投稿予定日より1週間遅れてしまったことをお詫びしたい。少しは業界も動くだろうと思っていたのだが、思った以上に動かない。ネタがなくて正直困る。

緊急事態宣言がようやっと解除となり、10月1日から人々は仕事帰りに居酒屋やレストランに殺到した。ニュースでも取り上げられていたが、人々の居酒屋で楽しむ様子が映っていた。多くの人々の笑顔が報告され、お店もこの状況から一安心と言うところだろうか?やはりクリーニング業は外出する人々が増えない限り栄えることのない商売である。いくつかのクリーニング店に9月の状況を聞いてみると「8月よりも厳しい」と肩を落としていた。一部の飲食店では政府の方針に従わず、酒類を提供していたが基本的にほぼすべての飲食店が方針に従っていたと思う。故に9月下旬には感染者数、重傷者数など主要な数字が大きな成果として表れていた。東京が大阪よりも少ないのもびっくりだが、100人台という数字を聞くと「随分と少なくなったものだ」と感じてしまう。

今回は市場の動きを紹介するネタがないので我が社の現在開発しているモデルをここで少々紹介したい。今回、開発中の製品はトンネル仕上げ機だ。三幸社でトンネルを作るのは初めてだが、これはドライクリーニング用トンネルではなくランドリー用トンネルである。ここしばらくの間、私のこのブログでは日本のドライクリーニング需要減少の話しをしているが、ここで改めて申し上げるとクリーニング店が自社のそれまでのビジネスモデルを変えていかない限り残っていくのは難しいだろう。しかし、変えようにもメーカーが一緒になって考えない限り難しいのも事実である。

私は兼ねてからシャツ類の取り込みを提唱し続けてきたが、お恥ずかしい話し、どのようにシステムを組んでいけば良いのか、がわからなかった。私が音頭を取っているメーカーの業界研究グループ・PTBプロジェクトでは10年前からポロシャツ、Tシャツ、ブラウスなどのシャツ類を需要喚起の品目に加えられるように、と研究を続けてきた。その研究に従って我が社ではMF-300Jというブラウス仕上げ機を開発した経緯がある。しかし、その機械では原価低減には至らず、企画倒れになってしまった。できなかった理由はブラウスの濡れがけは乾くのに時間がかかってしまい、結果として30枚/時間さえも仕上がらなかった。しかも仕上がり品質も決して目を見張るモノではなかった。これでは価格を下げることなどできず、多くのクリーニング店にとってあまり役に立たない機械と受け止められたのだ。しかし当時はワイシャツ以外のシャツ類を仕上げる専用機は全く存在しなかったので、一歩前進である事は間違いなかっただろう。ちなみに最近はこのMF-300Jが売れ始めている。やはりワイシャツが相当減ってきていて、他のシャツ類も積極的に集めないといけない、と考えるようになっている証拠なのだろう。

さて、話しを本題に戻そう。トンネル仕上げ機を本格的に考え始めたのは3年前である。ある日本のお客様グループをアメリカ視察にご案内したときの話だ。オハイオ州クリーブランドにあるクリーニング店を訪問した時の事である。そのクリーニング店の経営者がお店の隣に洗車場を設置していたのだ。しかしその洗車場は日本のモノとは全然違う。日本の機械は指定の場所に車を止めると門型になっている洗車機が前後に動きながら車を洗っていく。所要時間はざっと5〜10分だろうか・・・。と言うことはこの門型洗車機ではおおよそ1時間に最大12台しか洗う事はできないのだ。
一方でアメリカの洗車機はまさにトンネルなのだ。車の左前輪をベルトコンベアのフックにひっかけておき、ギアをニュートラルにしておくと勝手に車を動かしてくれるのだ。そして順々に洗剤をかける場所、クルクル回るブラシのある場所、そして乾燥する場所と移動し、洗車が完了するのだ。この設備はざっと50m以上はあるだろうか、いずれにしても非常に場所をとるのだ。しかし、この設備で洗車をすると処理時間は2分くらいはかかるのだろう。しかし前の車がまだ処理中であるにもかかわらず、次の車が入れるので1分以内に1台は確実に処理できるのだ。日本の生産性とは比較にならないほどの台数をこなすことができる事になる。詳しくはこちらのURLから動画をご覧頂きたい。

https://youtu.be/lpC706zHirc

私はこの洗車機をみてトンネルを考えるようになった。やはりコンパクトな機械は生産性が上がらない、ある程度の場所を使わないと量をこなすことはできない、と考えたのだ。もう一つは洗濯物が動かないと生産性は上がらない、ということだ。この二つをキーワードとして開発に入ってみた。

ベンチマークになったのはフジ型三点セットのワイシャツ仕上げ機だ。優秀な工場はこの三点セットを使って三人で200枚以上/時間のワイシャツを仕上げる事ができると言われている。私はこの200枚という数字を目標にワイシャツ以外のシャツ類全部を一緒に仕上げられたら素晴らしいだろうな、と思って開発してみた。品質のポイントは二つである。

  • 濡れがけのシャツが完全に乾くかどうか?
  • トンネルから出てきた時にシワがしっかり伸びているかどうか?

この品質条件を達成しながら時間200枚以上のシャツを仕上げる事ができたら全てのシャツ類をワイシャツのような値段設定で市場開拓する事ができるようになるのだ。

次に「なんでこんな設定が必要なのか?」と言うことだ。私はユニクロの宣伝で桑田佳祐がジーンズを履きながら地下鉄で歌いながら闊歩しているシーンがある。詳しくはこちらをご覧頂きたい。

https://youtu.be/GL0b2pEjX3E

私はこういうファッションが今後のビジネスウェアになる可能性が高いと思っている。今までのようなスーツにワイシャツ、ネクタイの時代はもう終わりを迎えているのだ。一部の高級層がそれまでのウール製の高級ブランドスーツを着る習慣は残るものの、多くのビジネスマンはもはやユニフォームのようなスーツを着なくなる時代になってしまうのだと言いたい。そのビジネスマン達を顧客にできていたクリーニング店は今まで通りのスタイルで経営していたら確実に顧客を減らすことになってしまうのだ。この話を読みながら是非自社の今後については考えてもらいたい。

我々のトンネルはまだテスト段階である。故に皆さんに詳しくモデルを紹介する事はできない。しかし試作機は完成している。現在、実際に洗い上がった洋服を投入してどのくらい伸びるか?をテストしている。次にこのトンネル仕上げ機を紹介するときは満を持して具体的に紹介する事になるだろう。なんとか今年中に発表したいものだ。読者の皆様においては事業再構築補助金の申請をできるようにあらかじめ組み立てておいてみては如何だろうか?

頑張って形にしたいと思う。