4月25日、私は海外営業のロバートと二人で羽田空港にいた。我々はこれからロンドンに飛ぶ。週末にロンドンで展示会があるためだ。前回は2022年の開催だったので2年ぶりの開催である。コロナはすでに過去の出来事のような様相でである。空港に行っていつも思うことは「すっかり元に戻った」ことだ。羽田空港の朝7時から8時は毎日人でごった返している。こういうときにJALのプライオリティを持っていると本当に便利だ。年に1度も海外旅行をしない人であればチェックインに時間がかかり、荷物を預けるのに時間がかかり、セキュリティチェックに時間がかかり、と出国審査を終えるまでに1時間以上は平気でかかる。ひどいとこれで2時間だ。私は事情がわかっているのでスイスイと事を済ませていく。30分もかからずに出国審査まで終えてしまうのだから便利で仕方がない。仮にANAで行くとこういうわけには行かない。だからJALを使い続けることになってしまう。十分な恩恵を受けているので感謝しかない。故に他社を使う意味がなくなる。これが航空会社の囲い込み戦略なのだろうが、喜んでその戦略にはまっているある意味優良顧客なのだろうか…。
ヨーロッパ行きはやはり飛行時間が長い。14時間のフライトでやっとロンドン・ヒースロー空港に到着する。イギリスの代理店Parrisianneの社長であるJimmy Holtが到着ロビーに迎えに来てくれていた。彼とは2002年からの付き合いで私にとってヨーロッパで最も信頼できる人間である。イギリスでのSankoshaブランドの繁栄は間違いなく彼のおかげである。地元で力強くプロモーションし続けてくれる人がいなくしてブランドを繁栄はありえない。とてもありがたいと感じながらもいつも空港に到着すると運転手代わりになって迎えに来てくれる。ビジネスパートナーでもあるし、ある意味親友である。故に「いつも悪いね〜」という気分だった。
翌日、早速展示会場へ行った。このスタイルもすでにイギリスでは定着してきた。イギリスで一番大きな競馬場でやるのだ。競馬場は競馬がなければ全く動かない場所だ。そこに目をつけた展示会主催者は通常のコンベンションセンターよりも安い賃金で運営ができないだろうか?と言うことで始めたのが2016年くらいだろうか…。2018年、2022年とやったので今回が4回目の開催となる。今回は63㎡の大きさをもらい、新型シングルワイシャツ仕上げ機のセットとノンプレス(Press Free Finisher・後述はPFFと書く)ST-9200Eを出した。スペースの割に機械の数が少ないのでは?と感じる人もいると思うが意外とそうでもないのだ。特にノンプレス(PFF)の周りにはスペースを取っておく必要がある。洋服をかけるスペース、仕上がった洋服を展示しておくスペース、何よりも群がる人が安全に見られるようにしておくスペースなどが必要だ。そんなスペースを作っておけば来場した人々は他の人を気にすることなくゆっくり見学することができるのだ。これはいわば戦略である。そのくらい、今回はこのノンプレス(PFF)に焦点を当ててみた。
スペースは良い。最大の問題はボイラーである。このノンプレス(PFF)は普通のトンネル仕上げきに比べて蒸気消費量は少なく、経済的である。しかしワイシャツ仕上げ機に比べればその消費量はとても多い。そうなると蒸気供給の安定は機械のパフォーマンスにおいてとても重要な役割となる。しかもこの会場は競馬場なのでボイラー供給はない。故に自分たちで電気ボイラーを用意しなければならないのだ。今回は60kwのボイラーを2機用意したが本当に期待通りのパフォーマンスができるかどうか、は実際に動かさないとわからない。蒸気圧は6kgで安定、運転し続けても蒸気圧が落ちることはなさそうだった。一安心である。これで2日間の展示会に臨むことができそうだ。
4月28日、展示会の初日である。会場もキレイになって来場者を心待ちにしている感じだった。我々はこの展示会でノンプレス(PFF)の評判がどうなるのか、がとても楽しみだった。実際にイギリスにこの機械を見せるのは初めてなのだ。多少の人々は噂を聞いたことがあるだろうが実際に目の当たりにした人は殆どいない。開始から2時間もしないうちに人々が集まり始めた。ほとんどのブースは機械を動かしたりしないので、機械を動かすだけで人々の注目は集まる。ハンガーにかかった濡れた洋服が機械に入っていくと人々はすぐに興味を示す。出てきた洋服を見てびっくりする。それもそのはずだ。濡れてた洋服が乾いて出てくるだけでなく、ほとんど手直しをする必要のない状態で仕上がっているのだから。訝しげに見ている来場者の顔が一気に驚きの顔に変わり、笑顔になる。予想はしていたが、やはり人々のこの表情を見るのはとても楽しい。
一方でワイシャツ仕上げ機は苦戦した。今回の展示会のために最新鋭機を投入した。イギリスは今までであればアメリカと同じサイズの機械を投入していた。しかし、昨今はイギリスでもスリム化が進んでいて、多くのワイシャツがブラウスのような作りになってきている。そうなるとアメリカサイズの機械では大きすぎてかけられないワイシャツが多くなってきているのだ。そのためにサイズを最新の流行に合わせて、しかも高生産を可能としたモデルにしたのだ。
今までイギリスと言えばピンストライプのスーツにワイシャツ、ネクタイというのがイメージだ。しかし、コロナ禍でワイシャツの需要は激減し、もはやワイシャツの高生産を求める声はどんどん減ってきている。実際にイギリスではリモートワーキングが進み、人々の出勤率が減ってしまった。そしてドレスコードも徐々に変わってきている。そんな状況からクリーニング店に集まるワイシャツの数は30〜40%近く減っているのが実情だそうだ。こうなるとなかなかワイシャツ仕上げに対する投資は厳しくなる。昔はワイシャツ仕上げ機の周りが人だかりになっていたものだが…、時代は完全に変わった。
イギリスでも世界の流れに従っていると言わざるを得ないだろう。この展示会には100社近くが出展していたがドライクリーニング機の展示はわずか2社しかなかった。昨年の11月にあったフランスの展示会ではドライクリーニング機の展示はわずか1社だった。どれだけ人々がドライクリーニングに重きを置かなくなってきているのか、がよく分かる。そしてワイシャツ仕上げ機も同じような傾向をたどっている。そしてノンプレス(PFF)に人が群がる…、確実に人々は水洗いの効率化を求めているのが現在の傾向なのだろう。
しかし、どうやって人々から洋服を集めるのか?これを考えていかなければノンプレス(PFF)を導入しても意味がない。一番の問題はどうやって売上を上げるか?これに尽きる。すでにホテルのゲストランドリーやユニフォームでビジネスを成立させている人々にとっては問題ないが、純粋にドライクリーニング店を経営している人々は今後どのようにしていくのか?答えを早く見つけ、行動に移すことができた人々だけが生き残るだろう。今回、2日間のイギリスの展示会に参加して改めて考えさせられた。