6月21日、私はJCPCの企画として24名の人々をシカゴとインディアナ州へお連れすることとなった。2022年の海外訪問でアメリカのクリーニング店は高級店を中心にとても儲かっている状況にあることは確認していた。一方で日本はなかなか儲かっていない。どうして彼等は儲かるのか?そしてどうして日本は儲からないのか?どうせなら儲かる人々の話を聞きに行くのはどうだろうか?ということを考えるようになっていた。今回はお遊びなし、ガチで学ぶツアーにしたかった。為替において日本円はとても安くUSドルをとても高く感じる。結果として旅行代金はとても高くついてしまうので、参加した人々には「それでも参加してよかった!」と思える研修旅行にしないといけない、と思ったのだ。
参加した顔ぶれはあえて公表しない。集合写真を後で添付するのでそれで判断してもらえれば幸いである。ただ嬉しかったのは半分近くの参加者が30歳前後ととても若い人々だったことだ。ほぼ全てが会社の後継者候補であったがあえて現社長のご子息、ご令嬢を送り出してくれたことに深く感謝したい。
今回訪問した先はZengeler Cleaners、Peerless Cleaners、Ziker Cleaners、CD One Price Cleanersの4つである。どちらも私はとても親密にお付き合いをしているクリーニング店である。しかし全てのクリーニング店が経営の仕方が全然違う。参加した人々にはこれらを学んでもらって一つでも自分の参考にしたいモデルが見つかれば良い、と思って選択した訪問先である。
簡単に訪問先を紹介すると最初に訪問したZengeler Cleanersはシカゴ郊外のNorth Brook地域、Livertyville地域を中心に活動しているクリーニング店で既に167年の歴史を持っているクリーニング店である。なかなかクリーニング店を誘致しようとしない町とも交渉を続け、結果的にその町の唯一のクリーニング店になっていたり、と富裕層が生活している地域に密着したお店戦略を行っている。一方で工場は約10年前に社長であるTom Zengelerさんが日本を訪問し、ユーゴー、武蔵野クリーニング商会の二社を訪問して日本の工場レイアウトにとても共感し、早速帰国してからとてもタイトなクリーニング工場を作った、という逸話がある。後にこのクリーニング工場がアメリカのベスト工場として表彰されたというのだから面白い!その結果、強烈な営業利益率を叩き出しており、とても収益力の高いクリーニング店を経営しているのだ。ちなみに今回訪問した4社とも15%以上のEBITDA、いわゆる税前利益を出しているがこのZengelerは飛び抜けて素晴らしい利益率を叩き出している。あえて数字は申し上げないことをご了承頂きたい。
次に訪問したのはPeerless Cleanersというインディアナ州Fort Wayneという町にあるクリーニング店だ。人口は23万人程度、平均世帯所得も65000ドルと比較的低い町にありながらたくましい売上と利益を出しているクリーニング店だ。ポイントは社長にあった。クリーニング業で最も難しいことは「売上を作り出すこと」だろう。工場での染み抜き技術や洋服をきれいにする作業は社員でも十分にできる。社長のSteve Grashoffさんは自分の仕事を売上を持ってくること、と明言している。所得の低い町でのクリーニング業となるとあまり売上や利益の見込みは高く設定できない。故に災害復元クリーニング(英語ではFire Restorationと呼ぶ)という保険会社とのタイアップで行われているビジネスのインディアナ州の大半の権利を契約したり、空軍の寮で発生するシーツやタオルの仕事を取ってきたり、またはタキシードレンタル事業会社で発生するクリーニング業の外注を受け取ったり、と多岐に渡る。一つのビジネスモデルを他の都市にも展開して現地競合と価格競争をするよりはよっぽど平和である。自社工場を如何に忙しくさせるか?を考え続けてやっているビジネスモデルに多くの参加者が共感したのは言うまでもない。
三つ目に訪問したのはZiker Cleanersというインディアナ州South Bendという町にあるクリーニング店だ。こちらも人口20万人程度ととても小さな町ではあるがPeerless CleanersのあるFort Wayneよりは所得レベルは高い。会社も110年の歴史を数え、町の老舗クリーニング店である。その彼等がこのタイミングで改めてクリーニング業に特化した考えを打ち出しているのが面白い。多くのクリーニング店はホームクリーニング業だけでは成り立たないので色々なことを外注受けとして活動しているのに対して彼等は更に高級志向のクリーニング業に向かおうとしている。そこにタイアップしようとしているのはテーラーリング、お洋服の仕立てをくっつけていることだ。高級志向の顧客を徹底的に取り囲むことを考えていたのだ。となるとPeerlessよりは売上のボリュームはどうしても小さくなる。しかし、一点単価が高いのので利益率は大きくなりやすい。その分、価値をどのように表現するか?に考えを凝らし、店舗や店員に投資し易い状況になる。このブランディングに対する考え方、投資の仕方が今回の大きな勉強になったのではないかと思う。
最後に訪問したのはCD One Price Cleaners、シカゴのワンプライスクリーニング店である。2013年にJCPCとしてZengelerとCD Oneを訪問したのだがZengelerは大きな工場を壊して徹底的に効率性を求めた工場に変わった。CD Oneはなんとワンプライスクリーニング店を継続しながらもWash & Fold、いわゆる洗濯代行業に力を入れ始めているのだ。ここで一つ洗濯代行業のポイントを申し上げるが、洗濯代行は外交チームがあるクリーニング店でなければ集めるのは極めて難しい。なかなか私物を自分で袋に入れてお店に持ってくる、という概念が人々にはないのだ。そこでCD Oneは敢えて外交部隊を新たに結成してWash & Fold事業に特化しようとしている。アメリカでは日本ほどの規制がなさそうでこれはとても幸運な環境とは言える。しかし、アメリカにもコインランドリーがあるのでそう簡単に奪取することはできないだろう。そんな状況であってもこれに投資をするのには訳がある。今までのビジネスモデルが崩壊を迎えているからだ。CD Oneの顧客層はサラリーマン、しかし彼等の仕事スタイルがコロナ禍で大きく変わってしまい、集まっていた洋服が集まらなくなってきたことに起因する。そこで集める方向性を変えて、序でに今までの洋服も一緒に集めていこう、という戦略になったのだ。CD Oneはフランチャイズビジネスであるがそのフランチャイジーに対しても利益率20%を目指させている、というのだから素晴らしいとしか言いようがない。
簡単に訪問先のクリーニング店を紹介させていただいたが、同じクリーニング業といえどもやっていることは各社全く違う。これはそれぞれの地域から生まれる考え方の差から来ているのでどれが良いとか悪いとかはないと思う。しかし、今回の訪問先に共通しているのは「営業利益率、そして税前利益率の高さ」といえる。何故日本では営業利益率を10%以上に設定することができないのだろうか?ここに日本とアメリカの利益率設定の違いが現れている。日本では「売上の大きな会社=すごい会社」と思っている人はとても多い。私は最近こういう質問をする。「売上10億で営業利益2%の会社と売上2億で営業利益10%の会社、あなたはどちらが良い会社だと思うか?」と。利益額はどちらも同じ2000万円である。しかし日本人はそれまで多くの経営者が10億の売上を取ろうとしていた。アメリカでは100%後者の2億の売上を取る。私は10億を取りに行こうとする人々を「売上至上主義者」と呼ぶ。利益などどうでも良い、まずは売上取ってその地域を完全支配することが大切、と考える人々だ。競合が完全に弱るまで精一杯安値でシェアを取ることばかり考える。ただ、このようにせざるを得ない日本の事情もある。潤沢な給料をもらっていないから一円でも安いお店を利用しようとする国民性がこの売上至上主義を加速させていた。しかし、今回のコロナによって企業体力の弱い会社、いわゆる自己資本比率が低く、利益率の低い会社は世の中から消え始めている。そんなタイミングでこのアメリカ視察になったわけで参加者はかなりの刺激を得たのではないかと思う。
アメリカのクリーニング店が普通に目指している営業利益率15%以上というのが近い将来、日本の目指す数字になっていくのだろうか?簡単に達成できる数字ではないが是非目指してもらいたいと思う。それが次世代につながる源になるのだから。