2025年の1月に日本は神戸にて展示会を開催することとなっていた。いつも兵庫県クリーニング組合が夏に開いていた展示会を今回は1月のしかも平日である22日と23日に開くこととなっていたのだ。場所は神戸のサンボーホール。おなじみの会場である。
私は今回の展示会においていくつかの点で注目していた。最初の点ははどれだけの出展業者がいるのか?次の点はどれだけの来場者に恵まれるのか?であった。まず、最初の点はやはりと思ってしまった。確実に出展業者が減っていたのだ。無理はない、昨今のクリーニング業のメーカーは利益の出ている会社もあるにはあるが、圧倒的に出ていない会社の方が多い。そして、新製品が全く出ていない。日本はアメリカと違ってまだまだドライクリーニング業だけでもなんとかなる、と思っているお店が多い。故に新しいビジネスへの投資という考えはほとんどない。そうなると各メーカーは敢えてリスクを冒してまで新しい製品を作る必要はないと考える。当然の流れだ。しかしクリーニング店に持ち込まれる洋服の量は確実に減っている。クリーニング店はその流れに従ってもっと少ない人数で工場運営が出来るのかどうか?を考えていくだろう。ここまではっきりしている状況であってもメーカーにはその傾向に沿った機械さえも開発されていない。ほとんどの機械や商品が昔からずっとあるものなので来場する顧客はもちろん知っている。仮に機械が調子良くなくても新たに機械を買うか?言えばそうではなく、修理で凌ぐのが自然の流れと言える。顧客の購買意欲がなくなるのも当然で、結果として売上が上がりづらくなるのも仕方ない。メーカーの売上や利益もそれに伴って減少するわけだから展示会への参加費用までもなかなか捻出できない、というのが現状だろう。これは自分たちでその流れを変えなければならないのだが…。

次の点であるが、これは少々びっくりした。初日の22日は予想を大きく上回る人で会場は溢れかえった。この展示会はとにかくセミナーが多い。そのセミナー目当てで来る人々も多いと推測した。しかし、予想を上回る来場者によって展示コーナーも活況を呈した。残念ながら翌日23日は22日ほどの来場者には恵まれなかったが出展業者にとっては十分忙しく活動できたのではないか、と思った。
さて、我々はどのようにして生き残れるのであろうか?私は世界を歩き続けて思うのであるが、クリーニング業に集まる洋服の数は確実に減少している。これは世界共通の傾向である。このコラムをお読みになっている皆さんの殆どがクリーニング業に携わっている方々と理解しているので、敢えてこのお題目に触れてみたいと思う。キーワードは「処理する量=ボリューム」である。いくら利益率が高くても集まる量が減っていくことは事業の縮小、その結末は終焉を迎えていくのと同じである、と理解しなければならない。「倒産」という言葉がある。これは一般的には頂く売上以上に支出が多くて収支が合わないから、という言い方になると思う。しかし、心理的には「市場が我々を必要としなくなったから」と言うこともできるのだ。消費者にとって我々の存在がなくても生活していける、というのが倒産の一番大きな理由であると考えている。この考えは私の父が若かりし頃、常日頃言っていた言葉である。我々メーカーはクリーニング店にボリュームが集まらないとやっていけないのだ。理由は簡単だ。クリーニング店にボリュームがなければ生産効率など考える必要がないからだ。オーナー一族が身を粉にして作業すればなんとかなる。我々メーカーの出番などなくなるのだ。特に私が位置している「仕上げ」の分野はボリュームが減れば人間の手で行えばなんとかなる。そうすると我々は必要とされない会社となるので間違いなく廃業する運命にある。そしてほとんどのクリーニング店が現在のビジネススケールから小さくならざるを得ず、決して満足いく将来にはならなくなるのである。
このように考えてみると、クリーニング店とメーカーはある意味一心同体といえるだろう。当たり前の話であるが我々は繁栄し続ける状態にいたいと考えるのだ。ではどうやって繁栄し続けることができるのか?をもっとお互いに考え続けなければならない。そして出てきたアイデアをお互いにシェアし合わなければいけない、というわけだ。ここが私の今回のコラムのお題目とさせていただいたポイントである。「売上が減ったら価格を上げれば良い!」という安易な考えで収支を合わせるのでは長続きしないぞ、と言いたい。

クリーニング店においては「ボリュームを増やす!」というスローガンを掲ゲルべきであると思う。しかし、何を通じてボリュームを増やすのか?を真剣に考えてもらいたい。今までの世の中では、ドライクリーニングのみ対応できる洋服ばかりに囲まれていたのだから我々はそれだけやっていれば良い、と考えていた。しかし現在、我々はどれだけ水洗い可能衣類に囲まれているのだろうか?すでにこれまでのセオリーが通用しない世の中になってしまったことを我々はもう少し冷静に理解すべきである。この傾向に従って多くのクリーニング店が廃業に追い込まれている。残ったクリーニング店は「良かった、良かった!これで我々の思い通りにできる!」と考えている。多分、2〜3年はお楽しみいただけると思う。
しかし、その後はどうするのだろうか?今まで使っていた消費者が歳を経るごとにだんだん使わなくなってくるのだ。アパレルは確実にドライクリーニング非対応の洋服を作り続けていくだろう。高級ブランドに至ってもその傾向が進んでいくだろう。これだけ明らかな方向性が出ているのに未だに何も考えずに同じことを続けているクリーニング店を私は「もはや経営を放棄しているのではないか?」とも考える。もっと皆さんにおいては将来を真剣に考えてもらいたい。
今回の神戸展示会を通じて最も人々が群がっていたものは弊社で出していたノンプレスである。実際に見ている人々には様々なステージがある。興味本位で見ている人、全く興味はないが世の中で騒がれているからとりあえず見てみようという人、必要で仕方ないから真剣に見ている人、本当に様々である。真剣に見ている人は「水を通じたビジネスですでに困っている人々」だった。ただほとんどの人が「できるならばドライクリーニング衣類にも対応できるモデルであってもらいたい」という気持ちはあっただろう。今回、出品したモデルはドライクリーニングにも対応できるインバーター搭載の風量調整可能モデルになっていた。おかげさまで多くの注目を浴びたのは言うまでもない。

このノンプレスに真剣な眼差しを向けた人々は「これからも残っていくぞ!」と考えている人と解釈した。こんな機械を買わなくたってあと5〜10年はやっていけるだろう。しかし次世代にバトンタッチはできないだろう。もう現在のビジネスモデルは終焉を迎えようとしているからだ。次の世代を顧客に迎えるためには新しいことをしていかなければならない。それをクリーニング店がやってくれなければ我々メーカーはまっさきに潰れてしまうだろう。我々は新しいことに挑戦していくクリーニング店と歩調を合わせて行くしかないだろう。三幸社としてもできるだけ多くの会社に将来の歩調を合わせたいものである。そんな神戸展示会だったように感じた次第である。本当にこれからどうなっていくのか?人ごとと考えずに考えてもらいたい。