2年ぶりのアメリカ(その2)

前回のコラムでは2年ぶりのアメリカ出張の様子をお知らせした。特に物価の高騰についてはリアルにお知らせしたが、今回はそんな環境下でアメリカのクリーニング店はどのように変化しているのか?についてお知らせしたい。

2月16日、私はシカゴの子会社であるSankosha USAに顔を出してからすぐにZengeler Cleanersに向かった。社長のTom Zengelerと会うためである。彼とはもう10年の仲であるが、彼の会社を一人で乗り込んだ時の事を今でも鮮明に思い出す。彼と仲良くなってから全てSankosha製品に乗り替えてくれただけでなく、多くの友人達にSankoshaを紹介してくれた。多くの白人系のクリーニング店に販売できるようになったのも彼のおかげと言って過言ではない。

久しぶりの訪問。お店の見栄えは2年前から変わっていない感じがした。Tomと感動の再会!変わりはないようだ。良かった!お店を見せてもらってから彼の事務所へ移動し、いろいろ話しを聞かせてもらった。

Zengelerの本店。見た目は全く変わっていなかった。
Zengelerのルート車。アメリカの車はデザイン豊かでカッコイイ。
工場のダブルボディ。暑さ対策でクールカーテンを設置していた。

 

まずこの2年間がどうだったか?を聞いた。日本では30%近くの売上ダウンで皆さん大変な思いをしたことを覚えているが、こちらではなんと80%の売上ダウンということで日本の下落率とは比較にならないひどさとの事だった。理由はロックダウンを敢行されていたからだそうだ。日本の緊急事態宣言よりももっと厳しい規制がかかっていたので人々が外出することを全く許されなかった訳だから売り上がるはずがない。そう考えると日本はやはりある意味恵まれていたのかもしれない。
昨年の3月あたりから少しずつ元に戻り始めたという。あのときはワクチンが開発され、アメリカではいち早くワクチン接種が進められたから、という時期だった。アメリカ政府のワクチン接種奨励活動は経済に大きな恩恵をもたらした、というわけだ。一方で物価の高騰が大きな影響を与えたらしい。Zengelerでは2020年の年末から2022年1月までの間に4回の値上げを実施したと言う。1回の値上げ率は大きくないが、おおよそ1年の間に4回の値上げを敢行しなければならなかったのだ。そのくらい物価がどんどん上がり、1回の値上げではとてもカバーする事ができなかったらしい。すごい話しだ。日本で1年間に4回も値上げを実施する事ができるだろうか?我々のメンタリティではあり得ない事だ。あまり具体的な価格の話しはここでは控えさせていただくが、ワイシャツだけ敢えて言っておくと現在の為替水準でおおよそ520円(税込み)である。これでもしっかりワイシャツが出てくるわけだから日本とは大違いである。

Zengelerは8店舗を持っており、それを4つの工場でまかなっていた。しかしこのコロナで売上は大きく減り、2つの工場が閉鎖に追い込まれた。それまで100名以上いた従業員が現在は50名を下回っているとの事だ。仕方のないことだとしても悲しい現実である。しかし、本社の位置する所はシカゴの北部North Brookという地域にあり、とても裕福な人々が生活している場所である。そこに160年以上の歴史を刻んでいる老舗クリーニング店が君臨し続けている訳だから富裕層を中心に多くの人々に使ってもらっている。ここにZengeler Cleanersの成功要因があったのだ。Tom社長は言う。「多くの重要顧客は我々がいくらでクリーニングサービスを提供しているか?なんて考えていない。価格を気にするような人は我々のサービスを使っていないだろう」と。ここで改めて確信した事は「クリーニング業は富裕層を相手にする商売である」と言うことだ。現在の売上はコロナ前(2019年)の売上に対して20%ダウンで推移している様だが、価格を気にしない顧客で固められているから現在の売上水準もあるし、そもそも利益率が高いのだ。

故に彼らは洗濯代行(Wash & Fold)には全く興味がないようだ。そもそもこのような富裕層は基本的にメイドなど雇っているようで我々が敢えて踏み込むところではない、というのだ。その代わりもっと高級クリーニングのイメージを強くして家では洗えない洋服のドライクリーニングサービスに力を入れていきたい、というのだ。まさに一つの論理と言える。

ただ彼らにも課題は山ほどある。一番取り組まなければならない問題は「人件費の高騰に際してどれだけ省人力で現在の量をこなす事が出来るのか?」である。白人系で街の一番店はとにかくダブルボディが大好きである。ダブルボディを一人で使わせているクリーニング店もあるくらいだ。ここにはエゴも多少あるようで「シングルボディ=個人店」「ダブルボディ=大きいクリーニング店」という概念があるらしい。Zengelerの本店工場も現在はダブルボディを2セット使っているのだがこれからはもっと省スペース、少人数での工場運営を積極的に考えて行かなければならない、と考えているようだ。日本では既にLP-5000高速型シングルが発表されているが、アメリカでは今年の7月末に開催されるClean ShowにLP-5600高速型シングル(アメリカサイズ)が発表される予定である。アメリカでは既に一部の顧客に販売を開始しているが、知名度はまだまだなので本格的にはその7月の展示会で知られることとなるだろう。私はTomにこの話しをしたら大いに興味を持った。

これは余談になるが私が帰国して1ヶ月後には持っていたダブルからシングルに入換えを決定したとの報告が入ってきた。嬉しく思ったが当然と言えば当然だろう。人件費に土地代が予想以上に上昇しているのだ。これからの10年を利益ある活動にしていくための投資なのだ。彼は時代を読み、この事業を更に続けていく覚悟の上で行っている投資なのだ。間違いなく彼は残っていけるだろう。我々の使命は彼らの様なクリーニング店が生き残れるような役に立つ機械を作っていかなければならない。これからワイシャツだけでなく他の洋服に対する高生産型モデルを作って行かなければならない、と思った。

さて、彼らは更に高級クリーニング店としての存在価値を高めていくことを決意していた。そのために一番必要なことは「ブランドを知る」事と「カウンターに立つ店員の知識向上とその対処方法」である。高級クリーニング店は世界のトップブランドを知らなければならない。KitonやBrioniなどスーツだけでなく婦人物においてもいろいろ知る必要がある。私がBrioniとつながりがあるのを読者の皆さんはご存じの事だと思う。例えばBrioniのボタンを取り付けるのに最後に糸を何回回して取り付けるのだろうか?答えは8回なのだがこんな事を知らないとその洋服を確実にメンテナンスする事はできない、というわけだ。このようなクリーニング業をCouture Cleaning(クチュールクリーニング)と名付けられている。この道のりは簡単ではないと思う。しかし彼らはできるだろう。

Tom社長と一緒に記念撮影。久しぶりの再会でとても有意義な話しが出来た。

 

アメリカの潜在市場はすごい!やはり「お金持ちが多いとクリーニング業は成り立つ」という論理は間違いないなさそうだ。Zengelerの今後には注目し続けたい。次回は同日に訪問したCD One Price Cleanersの訪問を紹介したいと思う。

2年ぶりのアメリカ訪問

2月14日、私は2年ぶりに成田空港に来た。最後に成田空港に来たのは2020年3月9日、ニューヨークにお客様をお連れした時だったのですっかり空港のレイアウトなど忘れてしまっていた。今回、飛行機に乗るためにはアメリカ政府からの要請で出発の24時間以内にPCR検査を受けて陰性証明書を持っていないとチェックインできない、という制限がある。成田空港にPCR検査センターがあると言うのでそこで受ける事となっていた。しかし検査から証明書発行までに3〜4時間かかる、と言うことから私は朝2時過ぎに家を出て4時の予約でPCR検査を受けたのだ。証明書を頂くまではどこかで過ごさなければならない。開いているお店は吉野家だけ。こんな朝早くから牛丼食べて4時間も過ごせるはずもない。仕方なく到着ロビーの開いている席で時間を潰すしかなかった。
午前8時にようやく陰性証明書をもらい、チェックインカウンターへ向かった。残りの書類も全て準備しており、チェックインを無事に済ませることができた。そこから久しぶりのJALのラウンジに向かった。中を見たらすっかり様変わりしているではないか。感染対策がしっかり施されているのと非接触アプリで食事などの注文をできるようになっており、安心を提供するためにいろんな工夫をこの2年の間でやってきたのだな、と改めて感じる。ワインなどは自動サーバーで提供するようになっている。これは確かに安全だとは思うが何とも味気ない。
それにしてもなんと人の少ない事か!ラウンジにも20〜30人くらいしかいない。寂しい限りだ。出発便も昔の様な便数もないので無理はない。63番搭乗口からだったのでラウンジからゲートに向かって歩いた。ほとんどのお店が閉まっている。まるでゴーストタウンだ。これがコロナ禍の航空事情なのだろう。多くの仕事がなくなってしまっている。一日も早くコロナが収束に向かい、多くの人々が自由に海外渡航できる状況になってくれることを心から願った。

成田空港のショッピング街。まさにゴーストタウン。

2年ぶりの国際線。胸が高鳴る。この飛行機に乗ったらアメリカに行ける。11時間のフライトであったが全く長く感じなかった。飛行機はボーイング777-300。JALが保有する一番大きな機材だが乗っていたのはたったの30人。これもまた悲しい現実である。機内で客室乗務員の方々とお話しをしたら彼女達はアメリカでの滞在中にホテルから一歩も外に出ることが許されていないらしい。帰りの飛行機まで部屋から出ることも許されず、食事も部屋で一人で食べなければならないという。こういう現実を聞かされるとどんな仕事でも大変なのだな、と脱帽してしまう。少々の不便で文句を言っている場合ではないのだ。

こんなにワクワクしたフライトもない。一番で乗り込んだ。
機内から撮ったシカゴの街。ミシガン湖はまだ凍っていた。


シカゴに着いた!JALの現地係員の皆さんとも2年ぶりの再会。思わず大きな声で再会を喜び合った。やはり知り合いとの再会は本当に嬉しい。到着ロビーでは先にシカゴ入りしていた梅谷専務に迎えに来てもらった。二人で久しぶりのSaknosha USAを訪問する。既に現社長であるWes Nelsonさんが会社に来ていた。彼とはTV会議でいつも会っていたがやはり直接会うと感慨深い。思わず抱き合った。ホントに嬉しい。続々と現地スタッフが出社してきた。みんな元気そうだ。本当に良かった!皆が元気そうな姿を見れただけでも今回わざわざ来た甲斐があった。

皆で事務所でパーティー。久しぶりに皆に会えて感慨深い。

 

さて、本題に入ろう。まずシカゴに入って感じた事は物価の上昇だ。びっくりする程の上昇率である。ガソリンが4ドル/ガロンまで上がっている。1ガロンは3.785リットルなので現在の為替($1=115円)で考えると121.53円/リッターと言うことになる。この数字を見ると「なんだ、日本より全然安いじゃないか!」と感じる読者がいるだろう。しかし、私が最後に訪問した2020年2月の時点では$2.50/ガロンだったのでびっくりだった。私は今回の訪問でゴルフクラブを買って帰ろうと思っていた。アプローチ用のクラブを数本買おうと思っていたのだ。私は左打ちなので日本にはあまりラインナップが揃っていないのに対してアメリカではとても豊富なのだ。しかも価格はこちらの方が断然安い!コロナ前で大体$120/本だったので楽しみにしていた。しかし現在の価格は$150〜160とざっと20%以上の値上がりをしていたのだ。

シカゴのガソリンスタンド。2年前は$2.50だったのがもはや$4.00。すごい高騰だ。

 

最後はレストランの価格を紹介したい。御覧の方々と食事をしたときの事だ。右から2番目がZengeler CleanersのTom Zengeler社長、真ん中がCD One Price CleanersのRafiq Karimi社長である。シカゴを代表する2つのクリーニング店と一緒に食事できたことはとても良かった。彼らの事情については次回のブログで紹介しようと思っているのでお楽しみに。
とても楽しく食事はできたのだが価格をみてびっくりした。私はこのステーキを頼んだ。さて、これがいくらだったと思うか?これは14オンス(おおよそ400g)の熟成アンガス牛のサーロインステーキなので一応高級ステーキではあるのだが、税金、チップを含めるとなんと8800円なのだ。このように全ての価格が信じられないくらい値上がりしていた。

久しぶりの会食。本当に充実したお話しができた。

 

とても美味しかったアンガス牛のサーロインステーキ。しかし価格にびっくり!

 

この要因の一つになっていたのは人件費である。現在、シカゴのあるイリノイ州の最低賃金は$12/時だが2024年までに$15/時になると言われている。しかし実際は$20/時の求人広告が多い。たまたま私がシカゴに到着したときのゲートがTerminal 5なのだがその到着ロビーにポップコーン屋さんがあった。そこでの求人広告が$20だった。後にCD OneのRafiq社長とお会いした際に人件費の件で話しを聞いたところ「$20の時給ではなかなか集まらない」と言ってた。なんと言うレベルだろうか?これがアメリカの現状なのだ。

こんな賃金の高い国でクリーニング業は本当に成り立つのだろうか?どうやって成り立たせているのだろうか?これが今回の私の最も知りたい内容になっていた。次回のブログで先に紹介した2つのクリーニング店にフォーカスを当ててご紹介していきたいと思う。