恐るべし、ニューヨーク!

5月23日、今年2回目のアメリカ出張に出かけた。今回も成田からの出発であった。しかし2月と比べると人の数は全然多く、確実にビジネス客などが戻ってきているな、と実感できた。今回の目的はニューヨークを訪問することだった。アメリカのクリーニング業界全体としては世界と同じくダウンサイジングの一途を辿っているが、中流層から高級層においては完全に元に戻ってきている感じがする。どのような状況になっているのか、好調の元を調べに行きたかった。

5月24日、私はシカゴからユナイテッド航空を使ってニューヨーク・ラガーディア空港に飛んだ。アメリカでは既にマスクの着用義務がなくなっている。機内においても原則着用しなくても良いのだ。しかし自発的に着用している人も20〜30%はいただろうか。私はもちろん着用したがやはりこういう密室だと感染する確率も高いので気を付けたいところだ。それにしても日本とは全く生活習慣が違う訳だから驚くことばかりである。
到着したら、当社の東海岸の営業をやっているDarrenが私を待っていてくれた。早速二人でいくつかのクリーニング店を訪問した。ニューヨークではJeeves、Hallak、Maurice Garment Care、KingBridgeなどの高級クリーニング店を中心に多くのお店と良いお付き合いをさせてもらっている。しかし、今までご縁がなかったところで今回ご縁を頂いた会社がある。それはMadame Paulette、ByNextという会社が1年前に買収したクリーニング店である。詳しくはお話しできないが、あるプロジェクトから急接近する事になった会社である。いきなり面識を持てる機会を頂いたのでこちらもとてもワクワクしていた。

Madame Pauletteの外観。全くクリーニング店とは思えない綺麗な店だ。

 

Madame Pauletteはカーネギーホールからわずか200mくらいの所にある。カーネギーホールといえば数多くの有名なオーケストラやピアノコンサートを開く場所として有名だ。こんなニューヨークの一等地でクリーニング店の経営をやっていて本当に商売になるのだろうか?お店はとても綺麗でブティックのような装いだ。これをクリーニング店と理解できるのだろうか?と多くの日本人は思うだろう。日本のクリーニング店はお店に「クリーニング」という文字が入っていないと人々に認識されない、という不安から入れるようにしている事を多くの経営者から聞く。しかしこう言うお店はもはやクリーニング店ではなくMadame Pauletteなのだろう。ブランドとして認識されているのだろうな、と思った。
店内に入ってみるとカウンターがあったが、お客様が座れる椅子が3つくらいあった。こういう雰囲気は「大切なお洋服だからしっかり確認しながら丁寧にケアするよ!」と言われているような感じがした。高級な洋服が持ち込まれる訳だからこう言う雰囲気であるべきなのだろう。

カウンター。椅子が用意してありお客様とゆっくり話せる環境ができている。
お店にロゴ。しっかりブランディングされている。

 

やはり価格が気になる。聞いてみたところ以下のような価格だった。
ワイシャツ:$16.00
ブラウス:$32.00
ズボン:$32.00
ジャケット:$60.00
コート:$90.00
なるほど、このくらいの値段を取らなければマンハッタンの一等地でお店を出す事など出来るわけない。ちなみに翌日訪問したKingBridgeの値段も調べて見ると
ワイシャツ:$6.00、ドライクリーニング:$22.00
ブラウス:$22.00
ズボン:$19.00
ジャケット:$22.00
コート:$77.00

とこんな感じである。KingBridgeは場所が南部のBrooklyn地区なのでマンハッタンよりはお安い感じがするが、それでもニューヨーク価格と言えるだろう。やはりこれだけの料金をニューヨーカーは普通に払う事ができるのだからここに住んでいる人々の所得は桁外れといえる。

さて、話しをMadame Pauletteに戻そう。それにしてもお店が広い!!一体どのくらいあるのだろうか?と聞いたらざっと25,000スクエアフィート、日本の単位に直すとざっと700坪である。なんて広いんだろう!
奥へ進んでいくと応接ルームに大きな鏡が置いてある。ここでウェディングドレスなどのお直しに来たお客様と詳細を検討したり、できあがったドレスを実際に着てみて最終チェックをするような場所として用意されている。その後ろには数多くのドレスがスタンバイしている。こうなるとお店が「何を集めたいのか?」がはっきりしている。

奥の応接ルーム。ここでドレスのお直しをミーティングしたり出来上がったドレスを試着したりできるようになっている。
ソファーの裏には数多くのドレスが出来上がった状態でお客様を待っている。


そしてこの応接スペースの真上に階段で上がるとお直し工房があった。やはりお直しはショップにはなくてはならない分野なのだろう。ここら辺は日本の典型的なチェーン店とは全く違う。残念ながらタイミングが合わず、彼らのクリーニング工場を見学する事はできなかったのでどんなオペレーションをしているのか、を確認する事はできなかった。それでもこれだけの価格でクリーニング業を運営できるのは幸せとしか言いようがない。

二階にあるお直し工房。とてもゆったりしているスペースだ。

 

さて、高級店で一番大切なのは接客と思う。お客様を知ることはもちろんであるが、それ以上に洋服の事をよく知らなければならない。ブランドを知ることはもちろん、どんなお値段のするお洋服なのか、を認知していなければ正しい接客はできない。こう言うお店で働く人はある意味スーパーマンだ。先ほど書いた価格はあくまでも基本料金だ。ブランドの洋服となるとそれなりの金額を請求する事になる、というのが彼らの基本コンセプトである。
店員さんがそこまで一つひとつを覚えることができるのか?という質問に対して社長のKamさんが面白い事を言った。「まさか!これだけのブランドや価格をしっかり覚えている人はなかなかいないよ。僕だって覚えきれない。だからレジの力が要る。我々は独自のソフトを持っていてそこにブランドや洋服のタイプを打ち込むとすぐに価格が出てくるようになっているんだよ」と。これにはびっくり。しかし同時にとても理にかなっていると思った。仮に洋服のブランドや値段を知らなくてもレジの情報として既に登録されていればいくらのクリーニング料金にすべきか?を考える必要がないのだ。後は目の前にいるお客様に精一杯のおもてなしをしてあげられれば良いのだから店員は集中する事ができる。そのレジを実際に拝見する事はできなかったがこれは間違いなくお店のブランディングの一つの要因と言えるだろう。

恐るべし、ニューヨーク。ここはまさに通常の世の中とは全く違う空間である。夜はKam社長と営業マンのDarrenと3人で食事をしたがいろいろな話しで盛り上がった。ニューヨークのレストランもやはり値段がとても高くてびっくりしたがとても楽しい時間を過ごす事ができた。