Sankosha Europe設立に向けて

2月4日、私は家で夕食を済ませてそのまま羽田空港に向かった。夜中の1時のフライトでヨーロッパに行くためである。羽田空港は24時間空港になっているが私は夜中のフライトを利用したくない。夜と言うのはどうも都合が良くない。私は基本的に毎日ワインを楽しむ。そして夜は遅くとも22時には就寝する。そんな生活をしている人間が夕食にワインを飲まずに寝る時間に空港にいる、というのは調子が狂う。JALはそんな時間でもラウンジをオープンしてくれているのだからこれはとてもありがたい。空港のラウンジに入ったらすぐにワインを飲ませてもらった。そして設備されているマッサージチェアでリラックスしたらなんと寝てしまった。気持ち良いところでふと時間を確認したらなんと出発10分前ではないか!一気に血の気が引いた。急いで荷物を手に取り出発ゲートに急いだ。案の定、ゲートでは最終ボーディングコール中だったので間一髪、他の皆様に迷惑を掛けることなく乗ることができた。本当に危なかった。だから夜中のフライトは嫌いだ!

なんとか乗れたフライト。危なかった!!

 

今回は4泊6日の旅で4ヶ国を訪問した。訪問順にイタリア、ベルギー、デンマーク、イギリスである。国際線はロンドン行きであるがそこから乗り換えてイタリアに向かう。これから毎日違う国を飛行機で移動しながら訪問するのだから忙しさ極まりない。今回の目的はそれぞれの国の代理店を訪問し、今年6月に予定しているSankosha Europeの設立、そして新しいメンバーたちと共に今後のヨーロッパでの機械販売、そしてサポートの運営をやっていく。そのことを既存代理店に説明し、その理解と協力をお願いするためである。このSankosha Europe構想は昔からずっと持っていたのだがなかなか実現しなかった。実現させるためには協力してもらえるパートナー、そしてそれを運営する資金、そして売れるマーケットが必要だった。残念ながらどれもこれもが十分ではなかったのだ。Sankoshaブランドはヨーロッパでも一番信頼できるブランドとして有名ではあるが、やはり価格が高い。実際、ヨーロッパのクリーニング業界はアメリカ業界と比べて会社の利益率は総じて低い。故に価格に対する感度はとても高いのだ。その状況において、イタリアのメーカーが代理店を通さずに直販をすることが多いことから価格はどうしても低くなってしまう。それらに対応できる価格力は残念ながら我が社にはない。我々が直接サポートできる部隊がいない限りイタリア勢と張り合うことはできないのだ。
次に製品であるが、ヨーロッパのクリーニング業界はアメリカほど工業的ではない。工業的ではない、ということは工場に量が集まらない。ということは、オートメーションが必要ない、そして高生産モデルを必要としないのである。それにより最も求められないのは集中ボイラーである。日本やアメリカではクリーニング工場にボイラーを設置するのは当たり前の発想である。その日本で育まれたSankosha製品はボイラーが工場に設置されていないと動かすことができない機械となっている。イタリア製品においてはボイラー内蔵モデルが開発されている。逆にこれがなければヨーロッパでシェアを獲得することは不可能だったのだ。ここでボイラー内蔵モデルという機械を説明しよう。「ボイラー内蔵」という言葉どおり、機械に給水設備をするだけで機械の中にGenerator、いわゆる発蒸装置がついていて、その装置を通じて蒸気が機械に供給される、というモデルである。その機械を動かすためだけに用意されている発蒸装置なのでとても経済的である。なぜならば機械を使わないときは発蒸しないからだ。使うときだけ活動するのがとても魅力である。しかも灯油などを必要としない。電気で発蒸されるのが素晴らしい。問題は容量が基本的に小さいことだ。アメリカのように8kgの蒸気圧などで作業することはできない。それだけ発蒸する容量がないのだ。それを逆に8kgまでできるようにすると不経済なモノになってしまう。だったら集中ボイラーを購入した方がよっぽど良い。しかし、ヨーロッパではランドリーの発想がまったくない。今まではドライクリーニングだけで十分だった。故に水洗い衣類を濡れた状態でプレスしながら乾燥させることなど考える必要がない。だからウール仕上げ機、ウールプレス機があればよかったのだ。ウールを仕上げるのに蒸気圧は高くある必要がない。だから高圧を必要としなかったのだ。いずれにしてもここが設備に関する工業的を目指すのか、目指さないのか、という経営判断になるわけだ。

これがボイラー内蔵モデル。見た目はシンプル。
こちらはシャツ仕上げ機。これもボイラー内臓モデル。


故に、現在の中国市場においてイタリアブランドが席巻しているのもうなづける。中国ではクリーニング業界がこれから工業的になるのかならないのか、の過渡期である。まだ工業的とは言えない市場においてボイラー内蔵モデルは不可欠といえる。ボイラー内蔵モデルはヨーロッパ市場においては必要不可欠モデルであるのに対してSankoshaは用意がないのだ。売れるわけがない。一方でアメリカや日本のような市場でイタリア製品が全く売れないのもおわかりになるだろう。工業的ではないからだ。低価格、大量生産を求めるマーケットにおいてイタリア製品は全く合わないのだ。同じプレス機にしてもこれだけ市場のニーズが違うと全く同じ製品を投入しても売れる市場と売れない市場が出てしまうのだ。

これだけ条件の合わないヨーロッパ市場なので残念ながら我々の市場シェア率は低い。その状況を打破する可能性がこのSankosha Europeという新しい存在になるのだ。協業する相手は2004年からドイツで代理店活動を続けているZiermannという会社である。社長であるFrank Ziermannとはもう20年の関係を保っている。私の一つ年上、お互いに尊敬し合っている仲だ。彼には3人の子供がいるがその一人が昨年2023年8月末から2024年2月まで6ヶ月間Sankosha本社に滞在し、組立やアフターサービスの教育を受けた。彼の名前はMaxという。正直良く頑張ってくれた。その彼がSankosha Europeの顔になってくれる。これ以上ない境遇である。我々はこれをチャンスと受け止め、ヨーロッパ市場への強力な参入に力をいれていく。
中国向けに開発したGenerator付モデルを順次ヨーロッパ市場に投入していく。これによりZiermannの元々の活動も強固になっていくし、Sankosha Europeの活動にもますます力が入ることになるだろう。我々のタッグはまさにWin Winの関係になるのだ。

ただ、今まで付き合ってきた代理店達は不安を隠せない。それまでダイレクトに取引してきたのにこれからはZiermannを通して活動することになるからだ。価格はどうなるのか?本当に迅速なサポートはしてもらえるのか?そもそも我々しかSankoshaブランドをサポートしなかったのに競合がサポートすることになってしまうのか?など枚挙にいとまがない。今回はその説明をMr. Sankoshaである私が直接しに行くのが目的だったのだ。前置きがとても長くなってしまったが、それ故に短い期間でできるだけ多くの代理店を訪問したかったのでこういう旅程になったのだ。故に一つひとつのマーケットをゆっくり見る暇がなかったのでこれはちょっと残念ではあったが仕方ない。

イタリア代理店との夕食。
ベルギー代理店との夕食。
デンマーク代理店との夕食。
イギリス代理店との夕食。

 

その中でもデンマークだけは伝えておこう。なぜならば今回が私にとって初めての訪問だったからである。デンマークは人口600万人ととても小さな国である。首都であるコペンハーゲンにおおよそ180万人が住んでいると言われていて人口のおおよそ1/3が集中している。クリーニング店の100店程度しかないと言われていて市場はとても小さい。このように考えてみると「人口=経済」というのはうなづける。やはり人口が多くなければ経済は成り立たないのである。当然、これだけの人口なのだからクリーニング業が工業的になるはずがない。それは仕方ないのであるがそれでもSankoshaのワイシャツプレス機は売れる。何故か?それは高騰する人件費があるからだ。人件費はヨーロッパではおおよそ15ユーロ/時間が一般的である。しかし会社はそれに年金や福利厚生をカバーしてやらなければならないので国によってその率は違うが30%〜50%を上乗せる必要がある。日本人からすると天文学的な時給になってしまう。ちなみに1ユーロ=160円である。皆さんで計算してもらいたい。いくらになるだろう?日本では想像を絶する時給になるのだ。そうなると原価低減のニーズが出る。ここに我々のワイシャツプレス機が合致するのだ。デンマークでも2〜3台はすでに売れている。大した数ではないがこういう市場にも入っていくのは嬉しい限りだ。

デンマークに入っているワイシャツ仕上げ機。

 

改めてヨーロッパ市場については報告したいと思う。4月にロンドンで展示会があるのでそのときにイギリスの状況については報告できるのではないかと思う。まずはSankosha Europeが素晴らしいスタートを切れるように私も協力していきたいと思っている。