三幸社、飛沫防止板発売へ!

4月13日、社長が「飛沫防止シートを作ろうよ!」と言い出した。私が最後に海外出張して帰国したのは3月9日。なんと既に1ヶ月以上出張していなかったのだが、コロナウィルスの猛威が世界を席巻し、とても出張出来る状況ではない。いや、機械の生産さえできなくなってしまった。世界の需要が全て止まってしまった。なんと言う想定外だろうか・・・。

この日は臨時役員会を行い、それまで予定していたゴールデンウィーク休みを緊急で変更した。会社が臨時休業となり4月20日から1週間クローズとなった。そして27日から前倒しのゴールデンウィーク休みをその当時政府が設定した5月6日までとしたのだ。当社も相当苦しい。機械は作れない、クリーニング店が軒並み売上を落としていることから部品やメンテナンスの売上さえもとれない。完全に八方塞がりの状態で社長が飛沫防止シート作りを提案してきたのだ。

「そんな簡単に作って売れるのか?」と私も含めて社員全員が思っていた。しかし社長は「だったら何をやるんだい?何もやらなければ会社は潰れる。何かやらないと!!」というとても切実な発言から「やってみるか・・・」という感じになった。確かに作ろうと思えば作れることはわかった。ビニールシートもワイシャツ仕上げ機のクールカーテンで使っている素材を転用すれば出来る。フレームは鉄材を曲げるだけだから全く問題無い。

 

4月14日、早速試作の1台ができあがった。ステンレス材を使って塗装をせずに作ってみた。この会社は本当にフットワークが軽い!やるとなったらすぐに動く、そして出来る。この姿勢が会社を存続させ続けてきたのだと改めて強く感じた。すぐにその試作モデルを従兄弟のクリーニング店に試してもらった。私の車には組み上がった状態では載せられないので現地で組み立てた。しかし組み上がらない・・・。部品点数が多い、遊びがないからネジが穴にすっと入らない。とてもじゃないけど簡単に組み立てられない。やっていてとてもイライラした。

やっと組み上がった。私はなかなか格好いいと思っていた。しかしある店員さんは「まるで牢屋みたい・・・」と言う。別の店員さんは「ちょっとサイズが小さいですよね・・・。このテーブルの端10cmずつがもったいない」という。思った以上にネガティブなコメントばかりでテンションは一気に下がった。取りあえず使ってみる、と言うことで商品を置いて帰ってきた。

しかし、会社に戻ったらテンションが一気に上がった。既にびっくりするくらいの反応があったのだ。営業部が一部のお客様や販売代理店に連絡を始めていてそれに反応したようだ。やはり既に多くの人々が「このままではお店の運営が出来なくなる」と気にしていたらしい。瞬く間に200台分のオーダーが来た。やはり多くのお店が「このままではまずい!」と思ったのだろう。工場は早速対応に追われた。お客様は買うと決めたらすぐに欲しい。この商品はそういうモノだ。毎日感染リスクを感じながら営業しているのだから我々もできるだけ速やかに届けたいと思った。

次の問題点が浮上した。このステンレス材は特殊なガスを利用しないと切断することが出来ない。そのガスの供給が一日で限られているのだ。出来ても一日100台分まで。思った以上に生産能力が低い。一気にこのままオーダーがやってきたら我々は本当に対応出来るのか?と不安がよぎる。「あまり最初から勧めない方が良いのではないか?」などネガティブな意見が出る。まずは受け付けたオーダーを速やかに出荷しなければならない。とにかく社を挙げて取りかかる事となった。

4月15日、営業の方でパンフレットを作った。これで多くの人々に紹介することは出来る。工場は突貫で作り始めた。しかし三幸社は仕上げ機のメーカーであって飛沫防御スクリーンの会社ではない。仮に機械のオーダーが入ってきても作る事が出来なくなる。工場の責任者達の顔色は良くない。幸いにもそこまで機械オーダーが入っているわけではないので今の所は問題ないが・・・。

営業は一斉に販売攻勢をかける。この日も少しずつオーダーをいただいたが昨日ほどではない。私もFacebookで紹介した。どうやら機械のオーダーは全く入ってこなさそう。故に工場はオーダーを受ければ全力で対応出来る、という体制になった。

4月17日、初日の勢いはどこへ行ってしまったのか?オーダーがぱったりと止まってしまった。そしていろいろな問題がわかってきた。一番の問題は値段が高い事だ。我々はできる限りコスト掛からない様に作ったつもりであったがやはり15000円という価格はかなり高く感じているようだ。生産部は「これ以上安くしようとしてもどうやってやるのか?」と難しさをにじませる。もう一つの問題はサイズが一つしかない事だ。クリーニング店のカウンターも様々な大きさがあってそれにどうやって対応するのか?がポイントとなってきた。残念ながら現在の我々にはその問題に対する答えがない。社長が動き出した。「もっとフレームを細くしてみたら?そうしたらコストがさがらない?」「ビニールがどうしても上手く張れない。フレームとビニールを一体化する事は出来ないの?」こんな質問が出た。生産部は「フレームを細くしたら倒れてしまうかもしれない」という。「やってみてよ!検証すれば良いじゃない」と社長は引き下がらない。

今だから言えることだが今回は社長のリーダーシップがかなり全社を牽引してきた。社長はこの飛沫防御スクリーンは価格が勝負と最初から思っていたようだ。だから切り詰めるだけ切り詰めて極めて廉価で販売しなければ多くの人々には使ってもらえない。しかも、10台や20台の生産では意味がない、1000台や10000台の販売が出来なければこの廉価でやっていても意味がない、という訳だ。この会社にはこのような廉価品を大量に生産する経験がなかった。今だから言えることはこの飛沫防止スクリーンを通じてとても良い経験をさせてもらっているのだろうと言うことだ。

社長の号令に従って工場のコストダウン計画が始まった。生産技術課という部署があるのだが、ここが改良に走り出した。設計部がいちいち線を書いているようでは廉価ではできないしスピード感もない。社長の言葉通り、フレームのスリム化とビニールの張りをどのようにやるか?であった。彼らは本当に新しい提案が出来るのか?

その日の午後、私は三鷹駅の近くにあるグリーンパークゴルフ練習場を訪問した。この練習場の岡田社長とは昔からのお付き合いで私がまだプロを目指していた頃にはかなりお世話になった人だ。私がFacebookでこの飛沫防止スクリーンを紹介したら彼から連絡を一台欲しいと連絡を頂いたのだ。できあがった商品を一台持って行った。実際にクリーニング業以外で納品するのはこれが初めて。早速練習場のフロントに設置してもらった。「こういうのがないととてもじゃないと営業が出来ない!実は来週月曜日から平日に限り営業を開始しようと思っていたので何かないかな〜、と思っていたら打越君のFacebookを見てすぐに連絡したんだよ」という事だった。問題は練習場での待合室だったようだ。カウンターで働く人は無数の知らない人と相対しなければならないリスクがある。そして待合室に人が何人も溜まってしまうと三密の状態を作ってしまう。これらのリスクからずっと練習場を休業していた、とのことなのだ。「これさえあればフロント業務は出来る。それでも週末は人が集まり過ぎちゃうからまだ出来ないんだけどね」と半分うれしさをにじませながらも残念そうな話しだった。世の中にはこういう事業者が沢山いるんだ、と感じた一時だった。