オーストラリア代理店の日本訪問

9月23日、当社のオーストラリアの代理店であるSpencer SystemsのDaniel Haysが来日した。彼は25日から始まる上海の展示会、Texcare Shanghaiに参加するためである。実は来年の5月下旬にオーストラリアのメルボルンにてIDC国際クリーニング会議を開催する予定になっているのだが、オーストラリアのホストに彼を抜擢したいと思っていたのだ。最近、IDC国際クリーニング会議は私が企画する事が多い。このように業界が縮小してきている状態で次に何をやれば良いのか?がわからない事が多い。私は仕事の立場上とはいえ世界中を旅している強みから、今後業界がどのようになっていけば良いのか?という考えは容易に提案する事が出来るのだ。ただ、それぞれの地域によってステージが違うのが問題である。例えばヨーロッパやアメリカのような洋服の先進国とタイやインドネシアのような発展途上国ではクリーニング業のステージは全然違うのである。そんな人々を一同に介しての会議になる事から共通のお題目を提案するのはなかなか難しい事である。
オーストラリアはヨーロッパ・アメリカと同じレベルにあり、洋服においては先進国と言える。オーストラリアという国はとてもユニークな国でヨーロッパとアメリカの両方の業界文化をそれぞれ影響されている国なのだ。私からするとヨーロッパからの影響70%、アメリカからの影響30%という感じがするのだが・・・。ただオーストラリアも先進国と同じ問題を抱えており、あれだけ広大な国土を有していても人口は2600万人、クリーニング店の数は国全体で700店以上しかないというもはやニッチな業界と言わざるを得ない大きさなのだ。もちろん、業界全体としては冷えきっていて多くのクリーニング店がこれからどうしていけば良いのか?がまったくわからない状態なのだ。そこで私は日本でブームになりかけているスニーカークリーニングのビジネスを是非オーストラリアでやってもらいたい、と思い、当社の代理店であるSpencer Systemsにこのビジネスの詳細を知ってもらおうと言うことで日本に来てもらったのだ。明日には一緒に上海に行くことになっている。

彼が到着したのは朝の5時10分、何とも早い時間だ。羽田空港国際線ターミナルの出口に顔を出してきたのは朝6時前。最近、こちらもかなり早起きなので問題は全くないが、こんな時間にピックアップしてもすぐに連れて行けるところがない。今回は事前に訪問をお願いしていた二つのクリーニング店を訪問する事になっているのだがまだまだ時間がある。と言うことで最初のお店の近くのレストランに行って朝食を取りながら事前打ち合わせをした。
話しを聞いてみるとオーストラリアでも靴のクリーニングはすでにやっているようだ。しかし我々がやっている様な感じではない。我々が現在進めているやり方は彼らにも大きな反響を生むかもしれない、と朝食を取りながら確信に変わっていった。
最初に訪問したのは練馬にあるクリーニングショップ共栄。社長の共田さんとは古くからの知り合いで今回の見学においても快諾してくれた。8時にお店に到着したらすぐに靴クリーニングのやり方を紹介してくれた。すでに今年の1月から靴クリーニングを始めており、すでに累計2000足の靴を集めているとのことだった。すでに彼の商圏では靴クリーニングのイメージが浸透している証拠なのだろうか?と思いながら彼のやり方を順々に見ていった。やはりDanielの目がすぐに輝いた。洗濯機を利用して靴を洗う、という概念が全くなかったからだ。誰もがこれを望んでいた。出来るなら人の手を使わずに綺麗に洗えることを考えていたのだ。しかしどうやって良いのか、がわからなかったのだ。私はこの洗い方を見慣れてきたが、それでもこの発想にはびっくりする。ポイントはシリコンマットだ。この様々な形と素材の堅さ、柔らかさが大きな影響を与えているのだろう。それから洗剤メーカーの開発も大きな要因である。靴なのだから基本的にとても臭い!そこで通常の洗剤に消臭効果を狙った薬剤が配合されているらしい。日本ではラクナと日華がそれぞれ出しているのだが、このお店では日華製品を利用していた。

(洗濯機にこれらのシリコンを使用。これが綺麗になる大きなカギ!)

(ドラムに靴を入れてその後にシリコンを入れているところ)

(綺麗に洗い終わった靴を見てご満悦の代理店の社長)

(見学を終えて共栄の共田社長と一緒に!)

おおよそ40分弱の洗濯工程で洗い終わった。洗い終わりの靴を見るとなかなか綺麗になっている。一番のポイントは靴の側面の白さだろうか。ここは普通にブラシで手洗いしていてもなかなか落ちない経験をお持ちではないだろうか?それが何とも綺麗になるのである。ここまで白くなるとプロとしての洗濯品質を見せつけることが出来る。Danielもこれを見て改めてびっくり。「これは是非オーストラリアでやってみたい!」と一気に彼は確信したようだ。乾燥は靴専用の乾燥機にかければ良いのだが機能は極めて簡単。靴を引っかけられるような棒に送風機能がついており、その棒から風が吹き付け続けられれば良いのだ。ポイントは熱風にしない事。モノによってはソールが曲がってしまうからだ。通常の運動靴ならば常温の送風で2〜3時間もあれば十分に乾いてしまうので安全第一の乾燥工程をおすすめしたい。

このように考えるとクリーニング工程は全くもって簡単と言うことが出来る。後は洗濯において預かっている靴がどんな状態であるか?という状態を確認する事が最も大切と言える。例えば少々古い靴であるならばゴムの状態が少し固くなってきている。そんな靴を普通に洗ってしまうと形を壊してしまう可能性があるのだ。そういう靴を洗濯する場合にはあらかじめ破損のリスクが伴う事をご了解いただき、合意書にサインしてもらう必要があるのだ。何も了解を取らずに洗ってしまい、仮に破損してしまったら賠償責任が発生してしまうからだ。靴紐も同じ事が言える。そのままドラムに放り込んでしまうとドラムの穴に紐の先が入ってしまい、紐をちぎってしまう可能性があるからだ。なので事前に靴紐が暴れないようにしっかり結んでおく必要がある。このように見てみると洗う事は簡単だとしても作業者の目利き、洗う前にやっておかなければならない準備等をしっかりオペレーションに組み込まなければとてもリスクを伴うクリーニングになってしまうのだ。

さて、我々は2件目の訪問先であるニックを目指した。今回は光が丘店をお邪魔して彼らのやっている靴クリーニングを見学させてもらった。こちらではラクナの洗剤と韓国製の乾燥機を使っていたが、基本的に午前に訪問した共栄と一緒であった。ここで気になったのは売り方である。共栄は今年の1月からスタートしたそうだが、最初の2ヶ月間は2足出したら1足サービスというキャンペーンを行って多くの顧客に靴をクリーニングに出す習慣作りをしたのだ。価格も500円とかなりお手頃である。一方、ニックはそのようなお試しキャンペーンはやっていない。彼らも急激なボリューム増を望んでいるわけでもないのとニックのブランドを考慮して900円で販売している。結果として共栄は累計で2000足の売上が出来ているのに対してニックはまだまだ、という状態である。

(今回洗ってくれた靴。結果としてどれもとても綺麗になった)

(洗う前の大切な工程。これをやらないと紐が切れちゃう)

(丁寧に靴をドラム内に入れている水野店長)

これはどちらが正しくてどちらが間違っている、という話しではない。どちらも会社の事を考えた経営判断なのでどちらも正しいのだ。ただ私は「新しい事にチャレンジしている」事に感銘を受けると同時に是非頑張って続けてもらいたいと思う。一般庶民に対して靴クリーニングを提供するならば500円というのは一つの強い訴求になるだろう。私はDanielと2店舗の訪問を終えて彼を吉祥寺のホテルに送った。そして夜に再会し一緒に食事を取りながら今日の出来事をもう一度お互いに話し合った。彼は間違いなく進めてくれる、と確信が持てた。彼も商売人なので売れる臭いのしないビジネスに力を注ぐはずがない。そういう意味ではとてもはっきりした人間だ。その彼がとてもうれしそうに本日の見学を振り返っていたのが印象的だった。とてもおいしい酒になった。

(夜は二人で一杯!話しは最後までつきなかった)