価格と品質のバランスとは?

私は3月19日から4日間、韓国に行ってきた。市場調査という名目で行ってきたが、この出張はひどかった。毎日ゴルフする旅になっていた。私は何をしに来たのだろうか?と思ったが、私のゴルフ好きは韓国の顧客の間でも有名らしい。せっかくだからゴルフしながら色々話しをしよう、ということで代理店のキムさんが勝手にそういうスケジュールを組んだらしい。楽しかった。しかしこんなにゴルフやってていいのだろうか?という気持ちも大きかった。

とあるゴルフ場。韓国は午前と午後で2回に分けられている。故に夕方になるとナイター設備もあるので安心してゴルフができる。

 

クリーニング店や工場はもちろん訪問した。流石に繁忙期といえる。前回も韓国のお話しで紹介したが韓国は日本以上にダウンジャケットが集まる。日本では相変わらずウール製のジャケットを着る人が多いが、韓国ではダウンジャケットのほうが主流である。やはり気温の差なのだろう。日本人にはとてもうらやましいほどの量の洋服が集まっている。韓国ではすでにダウンジャケット、布団、スニーカーと「現在の3種の神器」ができている。日本は布団が唯一定期的に集められるアイテムになっているが韓国のようなモデルは組めない。ここに気候の問題や国の道路事情などが起因する。やはり日本の道路はきれいだから靴は汚れにくい。

そして私は4月9日から4日間、中国に行ってきた。場所は上海、北京、そして大連とそれぞれの都市を1泊ずつしてきたのだ。ここ中国もクリーニングが商売になり始めている。今回はネットクリーニングをやっている工場を訪問してきた。前回の中国の話しではあまりクリーニングの細かい話しはしなかったと思う。今回は実際のクリーニング工場を訪問してきたので少々話しはできる。しかし、ここで何故いきなり中国のクリーニングの話しをしたか、というとここでもダウンジャケットが山のように集まっていたからだ。上海で訪問したこのネットクリーニングの工場にはびっくりするほどのダウンジャケットが集まっていた。価格はいくらか?というと色々な料金設定があるようだがおおよそ1枚500円のレベルである。韓国の価格はおおよそ1000円だ。日本は平均3000円というところだろうか。気候の問題は大きいと記述したが、価格設定も量を集める大きな条件となる。

中国のとあるネットクリーニング工場。このダウンの数がすごい。やはり価格は量を集めるのか?
箱詰めされた衣類が宅配業者により配達される。これが1日に1万個以上が出荷されるのだから強烈な量だ。

 

ダウンジャケットのクリーニングにおいては我々Sankoshaが製造しているような仕上げ機を必要としない。基本的に水洗いをして十分な乾燥すれば完成となる。要はその工程にしっかり時間を取れるかどうか?が品質の差を作る。韓国では業界第二位のワールドクリーニングを訪問した。工場を見せてもらったが、彼らは素晴らしい品質管理の元で運営している。ダウンジャケットのクリーニングはとにかく乾燥が命である。ワールドクリーニングは年間で2〜3ヶ月しか動かさない臨時工場を持っている。その臨時工場にはズラッと乾燥機が並んでいる。彼らは臨時工場をフル活用して顧客から預かった洋服をキレイにしている。一方で中国のネットクリーニング工場は残念ながらきちんとやっていない。集まる洋服の数に対して設備している乾燥機の数が足りない。しかし納期を守らなければならないので多少乾燥不十分でも出してしまう。価格が安いのは販売する側の自由である。しかし価格が安いから、ということでクリーニングの品質低下、ここではダウンの乾燥不十分で出荷してしまうのは業界人として許せない。仮にカビが生えたらどうするのか?そんな事故を起こすと顧客は二度と利用しなくなる。自分が顧客の立場になれば誰もが理解できる当たり前の発想だ。それが実際に販売する側になるとどうしてかわからなくなるのだ。実に不思議だ。

韓国ワールドクリーニングの洗濯済みダウン。とてもキレイに仕上がっている。
日本の機械も使っている。とてもキレイな工場だから自然と品質も良くなる。
独自のソフトで袋詰された洋服に自動でラベルがプリントされている。日本より進んでいる?

 

中国にはFornetという立派な会社がある。北京に本部を置く中国では名実ともにトップの会社である。フランチャイズ制を取っているがビジネスモデル、店舗設計、プロモーションなど我々がイメージしているクリーニング店のイメージとは全然違う。創業者であるパイ氏はベルギー系の中国人でフランスやベルギーの典型的なクリーニングビジネスモデルを中国に展開した。ただ一つ違うことがある。彼らが最も大切にしていることは「品質」である。前述した中国の典型的な安売り業者とは明らかにメンタリティが違う。中国に居ながら常に展示会、業界のカンファレンスなどに出席し、自己研鑽している。会社にはきちんと経営チームがあり、現在社長をやっているJulie氏は英語を話す。故に欧米の人々と情報交換できる力がある。そのような基盤を持っている会社が第一に目指すことは「品質」なのだ。当然ながら富裕層を中心に強い支持をもらっているブランドなのだ。日本で言うと白洋舎であるが、白洋舎はフランチャイズを行っていない。このようなブランドをフランチャイズで運営するというのだからある意味恐れ入る。

中国No.1のFornet。どのお店もとてもスタイリッシュ。
Fornetのカウンター。照明が素晴らしく、とても清楚に見える。まさに現代のクリーニング店!

 

しかし、Fornetの価格は一般人にとってはとても高い。ワイシャツは38元だ。現在の為替で換算すると760円になる。決して特別なクリーニングをしているわけではない。普通の洗濯や仕上げでこの値段なのだ。日本の中でワイシャツに700円以上も請求するクリーニング店は何社あるだろうか?皆無とは言わないが指で数えられる程度しかないだろう。低価格で多くの依頼を受ける、ということはその需要は十分にある、というわけだ。品質と価格というのはいつも反発するベクトルである。その相反する条件に合わせるターゲットが明確になって商売は成り立つといえる。日本の昔を考えて見ると日本のクリーニングは「ワイシャツで人を集めてドライクリーニングで利益を出す」という考えから1枚100円でやっていた時代があった。100円でも利益を出すために仕上げの機械化が進み、お陰様で我々も商売につなげることができた。ただここで特筆したいことは、日本のクリーニング業者が優秀だったことだ。いくら機械化を進めて低価格で提供するビジネスモデルを設定してもキレイに洗い、キレイに仕上げることは当然のようにやっていた。だから多くの消費者がクリーニング店を使い続けることができたし、1992年までクリーニング業界は成長を続けることができたのだ。これは日本独特の品質感度だったと思う。

こちらはFornetのハイブランドであるTop Clean。もはやブティックのような出で立ちである。
Top Cleanに集まるダウン。モンクレールなど高級品ばかりが立ち並ぶ。

 

今回のコラムで私が申し上げたいのは「価格次第で大きな需要を獲得することができる」という事実と「品質を大切にしなければその商売はすぐに破綻してしまう」という事実である。価格設定はその会社でターゲットにしたい顧客層に合わせるものなのでどのような設定でも良いと思う。しかし、品質については当たり前のことを是非やってもらいたい。それが業界のイメージにもつながるし、業界の繁栄にもつながるのだ。今回は中国のダウンジャケットのクリーニングにおける乾燥不良を紹介したがこういうことはないようにやってもらいたい、と心から思う。