7月27日の朝4時半、私は吉祥寺駅のリムジンバス乗り場に待機していた。今回は東ヨーロッパを旅することになったのだが、往路は羽田空港から、復路は成田空港へ、ということで空港が違うために車で空港に行くことができなかった。今回はJAL便でフィンランドはヘルシンキまで飛び、そこから乗り継ぎでハンガリー・ブダペストまで行く予定になっている。ヘルシンキ行の飛行機は朝7時50分発なのでこれでも2時間前の到着となってしまう。まだ眠たさが残る状態で吉祥寺までタクシーでやってきた。空港に到着し、いつものようにチェックインしてラウンジにて軽く食事を済ませてすぐに搭乗ゲートへ移動した。

フィンランドはヨーロッパでは日本に一番近い国の一つである。多分いちばん近いのでは?それは飛行機がロシア上空を飛べれば、の話である。しかし現在はロシア上空を飛ぶことはできない。結果としてアラスカ、グリーンランド、アイスランドなどを通過して最終的にフィンランドまで行くこととなる。飛行時間は15時間!なんとも理不尽に長い。空港はとてもコンパクトにできていて、乗り継ぎにはとても便利な空港だと感じる。過去に何回か使ったことがあるがいつも1時間半くらいの乗り継ぎでも楽々に移動できる。アメリカとは大違いだ。今回もEUへの入国審査、そして次のゲートへの移動も含めてたったの30分で移動できたのだから速い!とても心地よい移動だったのでフィンランド航空のラウンジにも寄ることができた。乗り継ぎ便に登場し、更に2時間のフライトでハンガリー・ブダペストを目指した。
ハンガリーへの入国は人生初めてである。これから一週間旅する先全てが初めての訪問である。空港に降りた瞬間から緊張が走る。Sankosha Europeとして活動してくれているZiermannが親子で迎えに来る予定であるが、果たして予定通り来てくれるだろうか?来てくれなければどこに行けばいいのかもわからない。本日泊まるホテルさえ知らないのだ。こんなに予定が確定していない旅も初めてである。幸いにもすぐに迎えに来てくれたのでホッとした。早速、車でブダペストの市内に入る。調べたところ人口はおおよそ500万人で歴史的建造物がとても多い。とても美しい街と思った。Frank Ziermannの知り合いという人と晩飯を一緒にする、というのでホテルのチェックインを終えて、早速そのレストランまで歩いて出かけた。日本は35℃以上だったのに対してこちらは20℃程度、なんとも心地よい気候である。汗もかかずにレストランに到着したら早速現地の知り合いと会うことができた。その方は昔、クリーニング店を父親と営んでいたというが残念ながらその経営もうまくいかず事業を廃業して現在はプラスチック加工会社を経営しているという。食事中にハンガリーの業界事情を聞かせていただいたがあまりポジティブな話を聞くことはできなかった。ドライクリーニングというのはやはり一部の人しか利用しないのだろうか…。

ハンガリーは肉食の国という。圧倒的に肉を好んで食する人が多いという。確かに地理的には海に囲まれているわけではないので肉になってしまうのだろうか。今回の食事もなんとステーキ。美味しかった。それ以上に私を楽しませてくれたのはワインだ。ハンガリーといえば甘口のワインTokaji(トカイ)が有名だ。値段はそこまで高くはないがとても上品なデザートワインである。初日からローカルの美味しいワインを堪能することもできた。



翌日は郊外にあるランドリー工場を訪問した。その会社はランドリー工場を経営しながらエレクトロラックスの販売代理店もやっているという。少々期待をしながら訪問したが、仕上げ機が工場に全くない。平物しかやっていない。そして洋服に関する知識もなければ機械については全く知識がなさそう。「こりゃだめだ!」という感じがFrankや息子のMaxと目を合わせるようになった。それでもハンガリーを全く知らない我々からすると一つでも情報を手に入れるために粘り強く話を続けた。結局収穫はあまりなかったが…。

午後にもう一社を訪問したのだが、その途中で町並みを見てみると色々違うことを感じた。この国にも電動キックボードのレンタルがあちらこちらで見かけた。日本ならUber EatsであるがこちらではFoodoraという同系列のサービスがあるようだ。それを背中に背負って活動している人がかなりいた。ブランドはそれぞれであるがどの国でも似たような販売傾向はあるようだ。

それ以上に気になったのはドナウ川である。ドナウ川はヨーロッパでは二番目に大きな川と言われている。ドイツからオーストリア、ハンガリーへと流れているらしい。ブダペストでのドナウ川はとにかく幅が広い、そして雄大である。ヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」を口ずさんでしまう。音楽のイメージよりは水流が遥かに速い気がするが…。
午後はもう一つの販売代理店を訪問した。前情報ではここも色々やっていると聞いたが、ほとんどがイタリア製の代理業であまり仕上げ機の取り扱いがないという。ハンガリーにあまり仕上げ機の需要がないのだろうか。残念ながらこの日は空振りであった。しかし今回は探す旅なのだから仕方ない。

翌日の午前中はセルビアとの国境付近にあるBoweドライ機を使っている縫製工場を訪問した。Frankにとっては顧客なのだから行ってみるのは当然だ。しかし、縫製工場と言ってもどんなモノを作っているのか、は全く情報なしだった。訪問してみたらびっくりした。なんとニット製品の縫製工場だったのだ。工場見学をさせてもらったが島精機のニット編み機が100台以上もズラッと並んでいた。先日、島精機グループの方々が当社を訪問してきた事があったがその時の話では「縫製業はますます価格の安い地域でばかり活動がなされている」とのことだった。確かにハンガリーは西欧に比べれば安さを感じる。縫製業とはそういうことなのか。
ちなみにニットは編んでいるときに油に塗れるのが通常である。その油を落とすのにドライ機が必要なのだ。この工場で使っているのはパーク、やはり洗浄力と価格力においては圧倒的な強さといえる。様々なニット製品を作っているのを目の当たりにしながらこの工場を後にした。



午後にはセルビアに入る。その前に腹ごしらえをしよう、ということで最寄りのローカルレストランに入った。最後にハンガリー料理を食べておこう、ということになったのだ。ハンガリーの食事としていつも最初に上がってくるのが「グヤーシュ」というスープである。ちょっと辛味があり、パスタとは違うのだが小麦粉で作られた小さな塊がいくつも野菜と一緒に入っている。小さなボールに入ってくるかと思ったら一杯でも終わらないほどの量を持って来るではないか!これも完全に誤った判断だった。スープを前菜にしてメインをラム肉にしたのだがメインを頼まなければよかった、と後悔した。そのくらいこのスープは美味しかった。
結局、その後にラム肉のステーキまでやってきてとてもじゃないが日本人の食べられる量ではない。残念ながら半分は残して昼食を終えた。

ハンガリーは二泊の滞在であったがとても興味深かった。歴史をとても感じさせる一方で経済的にはかなり厳しいのが現状と言えるだろう。そして人口が思ったほど多くないのがもう一つの問題だと感じた。やはり経済を大きくするには人口はとても大きな要因になると再確認できた。日本はどんどん人口が減り始めているがこれからどうなってしまうのだろうか?そんなことをふと感じながら次の国であるセルビアに向けて車は走っていく。