3年ぶりのPeerless Cleaners訪問

9月12日、私は再びシカゴに向けて旅立った。前回は帰国時にコロナ感染してしまったので今回は少し気をつけての出張となった。(と言っても何も行動で変わったことはしていないのだが…)

今回の出張は子会社であるSankosha USAの新年度方針発表会に出席するためであった。私が出発したのはこの日、そして発表会は水曜日の午後を予定していたので実際に到着してから少々時間に余裕があったのだ。私は兼ねてから一つの会社が気になっていた。それは2019年9月に訪問したインディアナ州のPeerless Cleanersだった。社長のSteve Grashoffと会って彼のメンバーコースでゴルフをやりながらいろいろ話そうと思ったのだが、ゴルフをやりながら彼の経営思想を聞いていくとすっかり陶酔し、いつの間にかゴルフを忘れてカートに乗ったまま彼の話を聞き続けていたのを思い出していた。先月のClean ShowでSteveと久しぶりの再会を果たした。その際に「9月に行ってもいい?」と聞いたら「いつでもウェルカムだよ!」と言っていただいていたので今回は火曜日から1泊で出かけることとした。

Peerless Cleanersはインディアナ州のFort Wayneという場所にありシカゴから車で3時間半である。今回の新年度方針に兄も一緒に来ていたので「圭介、一緒に行ってもいいか?」というので表面上は「え〜?一緒に来るの?」と冗談言いながら、絶対に眠くなる長時間運転に代わりができる事でとても助かった。我々は翌13日の朝7時に出発した。考えてみればインディアナ州はお隣の州ではあるがこの間に時差が発生する。1時間早くなるので我々は現地時間の8時に出発したこととなる。こういうのがアメリカはややこしい。私が最初は運転していたのだが案の定、2時間ほどで眠くなってきた。無理もない、昨日の到着だったわけだから時差ぼけの真っ只中である。兄が代わってくれたのはとても助かった。彼が運転を始めた10分後にはこちらはいびきをかいて寝ていたらしい。

Peerless Cleanersに到着した。外側の風景は全く変わっていない。フロントに我々の名前を名乗ったらすぐにSteveが出てきた。兄は初めての訪問だったので早速工場見学に連れて行ってもらった。まずコロナ禍の2年間でどのくらい厳しかったか?を聞いてみると意外な答えが帰ってきた。「特に大きな問題はなかった。それなりに忙しく仕事をしていたよ」と。どうやってそんな忙しくできたのだろうか?と思っていたら、どうやらCRDNの仕事が一番だったようだ。CRDNのことを一度詳しく説明したことがあったと思うがもう一度説明しておこう。

Peerless Cleanersの本社工場。外から見たら単に倉庫に見えるが…。トラックに書いてあるのがCRDN。

 

CRDNとはCertified Restoration Drycleaning Networkという名前の頭文字を取ってCRDNとなっている。意味は火災などで被害にあった洋服などを保険会社からの要請に従ってクリーニングサービスすることをいう。アメリカの保険は日本と違って事故品がクリーニングで元通りになるのであればそれを適用する。日本の場合は契約した金額がその時に出てくるだけでクリーニングなどを保険会社が依頼してくることはない。私も一度このFire Restorationという分野を日本でできないかどうか、を研究したことがあるが残念ながら無理だった。これはアメリカにしかできないクリーニング店繁盛の分野と言えるだろう。Peerless Cleanersはインディアナ州の大部分を担当しているとのことでコロナ禍でもとても忙しくすることができたそうだ。ということは…、火事はコロナ禍でも変わりなく頻発していたということになる。こう言うビジネスがクリーニング店にあるととても助かる。

このSteveさんの経営思想をここでもう一度紹介しよう。私は彼を素晴らしい経営者と思っている。何故ならば彼は「社長の仕事とは何か?」ということを明確に定義している。業種や会社の大きさによって考えは異なるが、彼は自分の会社における社長の仕事を「売上を作ること」と定義している。現在のクリーニング業界において一番難しい問題は「どうやって売上を作るか?」である。クリーニング業界は完全に右肩下がりの斜陽業界。今までドライクリーニングで大きな利益を獲得できたが現在はその礎が無くなろうとしている。こんな中で安定した売上を作るには会社の大きな方向転換が必要になると思う。彼が3年前に「売上を作ることが社長の仕事」と定義したのを覚えていたので現在はどうやって売り上げているのだろうか?ととても興味があったのだ。

CRDNによる売上が大きく貢献していることはよくわかった。しかし私が驚いたのはそれ以外の売上である。例えば空軍の施設で発生しているタオルやシーツのクリーニング、これも安定的に手に入れていた。これも確かに安定収入にはなる。(利益がどれだけあるのかはわからないが…)
どうやってこういう契約を持ってくるのだろうか?そしてもう一つあった。アメリカにはタキシードレンタルというビジネスがある。このレンタルビジネスで発生するクリーニングの下請けも受けることにしているそうだ。既にそのタキシードレンタルから週にワイシャツ2000枚、ズボンを2000枚受けているそうだ。ワイシャツは水洗い、ズボンはドライクリーニングで受けている値段は実際に自分達がお店で販売している値段を大きく下回るのだが結果として利益になっていると言う。

タキシードレンタルのワイシャツ。素材があまり良くないがそれでもこれではまずい、ということで一緒に解決しようということとなった。

 

ポイントはお店に関わるコストが全くかからないことと配送料においても全くかからないという点だ。彼らの方で洋服を工場まで持ってきてくれるし引き取ってくれる、となるならば多少の低価格でも全く問題ない。こう言う売上をSteveさんが直々に持ってくるとなると工場はとても安心するはずだ。あとは如何に効率的に綺麗に仕上げるか?だけがポイントとなる。ここは工場の人間たちに任せれば良い話だ。このサイクルが完成しているところにPeerless Cleanersの強みがあると言えるだろう。多くのクリーニング店は社長自ら工場に入って一緒に作業しているところが多い。しかしそれが本当に会社の価値を高めるのか?と考えると全くそれは違うと思わされる。
多くの経営者は

売上の低下 → コスト削減 → 自分が空いた穴を埋めることで収支を合わす

とこのように考える。しかしこの考えは絶対に間違いだと私は感じる。何故ならば経営者以外が日頃の顧客以外との商売の話をすることができないからだ。自分が工場の空いた穴を埋める作業をやっているのは自分の価値の安売りとしか言いようがない。いや、会社の価値をそこで下げていると言うことさえできるだろう。急に空いた穴は埋めなければならない。しかし多くの経営者が率先してその歯車になっている光景をみると不安を感じざるを得ない。そう言う点でSteveさんのさらに売上を違う先から持ってきている姿を見て私はとても頼もしさを感じた。

私のもう一つの訪問理由に最近我々が開発したノンプレスフィニッシャー(英語ではPress Free Finisherという)が彼のような工場で必要になるかどうか?を見てみたかったのだ。3年前に来た時には役立ちそうな部分があったと記憶していたのだが、実際に注目していたわけではなかったのでそれもみてみたい、と思っていた。実際に見てみたらその可能性は十分にあった。アメリカの人件費はもはや日本の倍はしている。そして日本と同じように働いてくれる人が見つからない。これが一番の問題なのだ。だから省人力工場というキーワードが必要になってくる。そこにはオートメーションというクリーニング業界ではなかなかあり得ない言葉をキーワードに迎えなければならない時代となっている。もちろん、それまでの基準を大いに考え直さなければならないことも加味するべきと思う。最終的にはその会社の経営者、経営チームが柔軟に変化を受け入れるかどうか?がポイントとなるだろう。(多くの経営者はそれを嫌がるのだが…)

兄と一緒に工場見学をし、そして夕方にはSteveさんと奥様のLaurieさんと一緒に夕食を楽しんだ。経営の話になると一族経営の話に発展した。彼らには二人の娘がいて両方とも後を継いでいる。しかし性格がとても違うようで難しいと言っていた。私は兄をとても尊敬している。彼こそ控えめ(とは言いたくないが)で身内に近ければ近いほどとても気を遣う人間としてとても感謝している。だから私はこんな活動ができている、とさえ思っているし、多分彼はそれを理解しているだろう。彼らにも英語で私が兄の活動にとても感謝していることを話すと「仲良いね」ととても羨ましそうに返答していた。兄はそう言う英語はわかるようで「録音しておいて!」ってなんともアホなことをいう。しかしそれが安定の経営を作るのだろう。売上を作ること、そしてその売上から利益を作ること、そんな利益体質をどんな組織で作るのか?それが会社の経営の要諦なのだろう。

Steve、奥様のLaurie、兄と四人で会食。とても楽しい、そして色々知り合えた会食だった。

今回はPeerless Cleanersを訪問して再確認できた。我々のノンプレスの可能性も改めて確認できた。それ以上に家族経営の難しさを改めて確認した訪問だった。翌日は朝の出発でシカゴに戻った。朝なのにやはり1時間も運転していると眠くなる。時差ぼけの象徴である。兄に一緒に来てもらって本当によかった。二人で色々話しながら帰ったのだった。それにしても夜に食事をしたときのステーキが本当に美味しかった!

いただいたステーキ。とても美味しかった!