7月28日、私は今年3回目のアメリカ出張にでかけた。今回は3年ぶりに開催されるアメリカの展示会Clean Showに参加するためだ。そして今回は子供の夏休み期間にも重なっているので妻と末っ子の二人を連れて行くこととしたのだ。私には子供が4人いるが上の3人は今回はお留守番。それまで彼らは何度か経験をしているのだが末っ子はあまり経験がない。しかも上の3人はそれぞれの交友関係や大学の関係などで長いこと日本から離れることもできないので今回は家を守ってもらうこととなった。それでも私は家族を連れて外国に出かけるのが本当に久しぶりで普通の出張と比べてテンションはもちろん上った。思い起こせば2月に2年ぶりのアメリカ出張を果たしてからすでにこの出張で今年5回目だ。毎回出張に付き物なのがコロナ対策である。日本のコロナ対策は海外のそれに比べてとても厳しい。故にこの旅においては万全の対策をしてきた。私だけだったらここまで大げさにはならないが妻と息子が一緒なのだから念には念を入れなければならない。
飛行機は午前11時45分、しかし朝7時には家を出て時間に余裕を持って行こうということででかけた。朝はやはり混んでいる。通常だったら自宅から羽田までは車で40分、しかし1時間以上はかかっただろうか…。通常の通勤ラッシュなのでこれは想定内、羽田のターミナル3に到着した。荷物をそれぞれ引いてJALのチェックインカウンターに行った。やはり夏休み前だからだろうか?ターミナルに人はあまり多くない。ターミナル3は国際線ターミナルとされている。しかし昨今のコロナでまだまだ日本を行き交う人々は少ない。無理もない、外国人は現時点で日本に自由に入国することを許されていない。一部の地域ではすでに認められ始めているものの昔のような気軽さはまったくないのだ。しかも日本に来る前に日本人も含めてすべての入国者が現地でPCR検査を72時間以内に受けてその陰性証明を空港チェックイン時に提示しなければ乗船拒否されてしまうのだ。このように考えると日本への入国はまだまだ気が重たい。そんな状況からだろうか、外国人の気配は本当に少ないし羽田に離着陸を予定している飛行機の数は昔に比べて圧倒的に少ないのが現状だ。
こんな状況で我々はチェックインを行った。閑散としたチェックインカウンター。待たされることもなくすぐにチェックインがスタートされた。そこで係員が一言質問してきた。「皆様、ESTAの登録はされていますよね?」と。私は一気に凍りついた。しまった!忘れていた!!なんと妻と息子のESTAの申請をすっかり忘れてしまっていたのだ。ESTAとはElectronic System for Travel Authorizationの略で日本語に直すと電子渡航認証システムという意味になる。いわゆる日本人がアメリカに行く上で必ず申請しなければ入国ができないアプリケーションなのだ。これは1回の申請で2年間は有効とされており、料金は$21かかる。私は今年の2月にすでに取得済みなので問題はなかった。そんなこともあり彼女らの申請を全く気にしていなかったのだ。
まずい!すぐにケータイを開いて二人の申請を始めた。我々が使っていたチェックインカウンターは急遽閉鎖、我々家族が完全に陣取ってしまった。ホームページのガイダンスに従って進めていった。それにしても質問が多すぎる。どんどん時間が過ぎていく。なかなか終わらない。焦る。昔はこのESTAは申請忘れをしていてもチェックイン時に登録して10〜15分もすればすぐに認証がおりていたものだ。しかしトランプ政権になってからアメリカの入国管理が一気に厳しくなった。それからというもののESTAはそんな簡単に認証がおりないのだ。あれだけ時間に余裕を持ってチェックインしたのに一気に時間がなくなっていく。申請忘れが発覚してしばらくして私は「もしかしたら全員で出発することができないかもしれない」と考え始めた。そんなところでJALの地上係員が「仮にお二人が出国できなかった場合はどうされますか?一人でも行きますか?」という質問をしてきた。こんなタイミングで何という質問をするのだ!と不快に思ったが、考えてみれば当たり前の質問である。そもそも問題を起こしたのはこの私だ。そんな事で文句を言っている場合じゃない。とっさに思いついた答えは「展示会が現地で行われるのだ。販売の責任者である自分が行かないわけにはいかないだろ!」と思い、「行きます」と言った。地上係員は「わかりました」ということで私のチェックインだけを進めていった。仮に妻と息子が行けなくなったらどうなるのだろうか?とすぐに考え始めた。まずはESTAの申請を終えなければ!ということで集中して申請作業を行った。
ようやっと二人のESTA申請が終了した。おおよそ9時になろうとしていた。地上係員が言う。「チェックインカウンターは出発1時間前の10時45分になったらクローズせざるを得ません。それまでにESTAの申請が通ればお二人もチェックインしてご一緒にご旅行いただけます。しかしそれまでに認証されなければ残念ですがお二人はお乗りいただくことができません。故にアプリでステータスを常にご確認いただき、遅くとも10時45分までには一度こちらにお戻りください。そこで判断させていただきます」と。まさに死の宣告のようだ。しかしやるべきことはやった。我々はこれ以上何もできないので一度チェックインカウンターを後にした。普通だったらすぐに出国審査をしてラウンジに通してもらって優雅に朝食をとる予定でいたのだが、その予定も完全に吹っ飛んでしまった。早速営業しているお店を探してみる。出発階は通常営業になっていないので開いているお店が少ない。仕方なく開いていた吉野家に入って最低限の朝食を取って時間を過ごすこととした。ラウンジで朝シャンパンと思っていたのに吉野家で朝食とは…。
しかし、こういうときの時間はなんと早く過ぎるのだろうか…。あっという間に10時が過ぎた。ESTAのページから妻の登録番号を入れる。番号が数字とアルファベットで13〜4桁あるのだが何回も打ち込んでいるので自然と覚えていた。1時間が経過したが相変わらずPending(審査中)という文字が出てくる。更に30分が過ぎて10時半になった。まだPendingの状態である。残り15分。私はもう諦めていた。この間、私はずっと自分を責めた。なぜ忘れていたのだろうか。お前さえきちんとしていたらこんなことにはならなかったのに…。そして私は一人で出かけることをやめることを決心した。JALのカウンターに行って「自分はチェックインしてしまったがやはり行くのをやめます。荷物を出せるようにしておいてください」とお願いした。先程まで行くと言っていたのに急遽やめることとなったので地上係員も焦る。申し訳ないがやはり妻と息子を置いて行くことはできない。すぐに私は旅行会社に連絡して飛行機のキャンセル、そして別の便で行ける可能性を一生懸命探し始めた。一つあった。United航空でおおよそ同じ旅程で行くことができる。しかしエコノミーで一人70万円かかると言われた。え?そんなにするのか?と耳を疑った。乗れるかどうかわからないJALは国際線往復をプレミアムエコノミーの利用で一人40万円である。これでも随分高いとは思ったがなんと70万円とは…。これもESTAを登録し忘れた自分のせいである。もう覚悟はできた。旅行会社に「もしかしたら現在の予約をキャンセルして、そのチケットを取り直しするかもしれないのでスタンバイしておいてくれ」とお願いをした。
10時40分、残り残り5分となってしまった。すでに20回以上は確認し続けただろうか…。もちろんPendingの文字を見続けていた。もう取り直しのスタンバイもできている。ここでなんと奇跡が起こった。10時41分、諦めながらもう一度確認したらなんと「Approved」という文字が出た。え?と自分の目を疑った。そして次の瞬間ひと目をはばからずに「やったー!」と大声を上げた。周りの人々がこちらをジロッと見る。構うものか!と、すぐに妻と息子の元へ走っていった。彼女らもおおよそ諦めていただけに私の走ってくる姿にびっくりした表情だった。「認証が降りたぞ!急げ!!」彼女らも大喜び、そしてすぐに荷物をJALのチェックインカウンターに持っていった。「良かったですね〜」と地上係員が言う。本当に良かった。もしこの飛行機に乗れなかったら現地で借りているレンタカーの登録情報やホテルなどにも連絡しなければならなかったし、新たな航空券で余計におおよそ100万円も支払わなければならなかったわけだから。無事に全員がチェックインできてすぐに出国した。私はすぐに旅行会社にも連絡をして予定通り飛ぶことができたことを報告した。電話越しに旅行会社もとても喜んでくれた。しかし、考えてみれば本当に自分の不注意でこれだけの人々に迷惑をかけてしまったのだからなんとも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
チェックイン、手荷物検査、出国審査とたった10分で終えることができた。あまりにも早く通過したのだが、飛行機の搭乗は11時15分からということであと20分あった。バタバタではあったが「せっかくだからラウンジに行こう!」ということでJALラウンジに直行し、飲めるはずのなかったシャンパンを妻と乾杯!我々の出国を喜んだ。息子は寿司を数貫頼んで食べていた。滞在時間はたったの15分。しかし十分に堪能できたひとときだった。
それにしても何という3時間だっただろうか…。こんなに気持ちが落ち込んで最後に高ぶるとは思わなかった。飛行機に乗り込んだときにはもう精神的にクタクタだった。しかしこれでアトランタに行ける!本当に嬉しさと疲れが両方入り混じった気分だった。
皆さん、アメリカに行くときはくれぐれもESTAの登録を忘れずに!次回は3年ぶりに開催されたClean Showの様子を報告したいと思う。