今年初めてのブログである。今年から1ヶ月に1回はブログを更新しようと思っていたのだが何ともネタがない。書くことと言えばクリーニング店の売上が1月8日からスタートした緊急事態宣言を機に急落してしまっていることである。昨年12月の売上が全体的に少し落ちてしまい、業界関係者は不安に思っていたのだが、1月に入ってからの落込みは目を覆いたくなるような状況になってしまっている。多くのクリーニング店が工場の50%近くを休業させている状態で、弊社のフィルムの売上を見てみてもその状況は手に取るようにわかる。年末のブログでも申し上げた通り、もはや以前のビジネスモデルでは成り立たなくなってしまっているのが現状といえよう。
いくつかのクリーニング店は更にセールをかけてボリューム集めに奔走している話を聞く。ただでさえ低価格でやっているのに更にセールをかけるのか・・・、明らかに人々の外出は減ってきていると思う。特に夜の人々の外出は無くなっている。実際に私も夜の外食においては1月に入って一度も出かけたことがない。この状況でセールをかけて本当に集まるのだろうか?セールをかけなくても集まると想定される洋服に対しても利益を圧迫させてしまう政策になっていないのかな?と老婆心ながら心配してしまう。何もやらないよりは良いしその決断は尊重するが、くれぐれも会社の利益率が更に低下しないように頑張ってもらいたいと心から願う。
私は1997年に三幸社に入り、海外を中心にクリーニング業界を見続けてきたが、その間にJCPC日本クリーニング生産性協議会と関わり、IDC国際クリーニング会議の企画をやるようになり、世界中のクリーニング業者と関わるようになった。その関わりを経てクリーニング業の歴史や現在のビジネスモデルなど様々な知識を持てるようになった。三幸社の海外進出は1988年で、イギリス・バーミンガムの展示会にワイシャツ仕上げ機を初出品した。当時「アジアからすごいワイシャツ機がやってきた!」とその展示会で一番の注目になった。私はその時参加していなかったが、私の父が帰国時に大興奮でその話をしていたのを思い出す。その流れから海外展開を視野に入れ、1993年にSankosha USAがシカゴに設立されたのだ。アメリカでも当時のモデルCN-561(国内はCN-551)が飛ぶように売れていったのをよく覚えている。しかし、私の父はアメリカでここまで売れるとは予想していなかった。私もどうしてあの機械がそんなにもてはやされたのか?がわからなかったのだが、それが現在よくわかるようになった。
時は1960年代後半から1970年代前半、アメリカやヨーロッパではそれまでのクリーニング業が破綻を迎えようとしていた。黒人の社会進出(人類平等における社会の認識)、それまで安価で雇えた人件費の上昇、形態安定シャツの登場、カジュアルウェアに対する理解などが挙げられるが、クリーニング業に於いてはどれもこれもが逆風だった。その当時どのくらいのクリーニング会社があったのか、はわからないが、相当数が廃業または売却を行った事を確認している。アメリカは1970年代からずっと業界の縮小が進んでいる。現在は大きな縮小には至っていない。白人系で家族代々続いている老舗クリーニング店は現在も堅調な動きをしている。一方で中堅クリーニング店がその当時から移民に事業売却を徐々に始めており、韓国系クリーニング店が爆発的に増加したのもこの1970年代後半から1980年代にかけての話しである。
こんな時代背景だったのだが、ボリュームはどんどん減るが、人件費はどんどん上がっていく、と言うことで韓国系クリーニング店は人を雇わず、夫婦だけで朝から晩まで二人きりで身を粉にして働き続けてなんとか生計を立てていた、と言うのが実情であった。はっきり言えば人を雇う力がなかったが、二人で出来る事は残念ながら限られている、だから便利な機械は導入したい、というニーズがあったのだ。その結果、韓国系のクリーニング店を中心に爆発的に売れたのだ。私の父は発売したシングルを当時の日本の小規模クリーニング店の為に開発したのだが、アメリカでは業界のダウンサイジングの時期に丁度合致したのである。
このようなアメリカの歴史を日本はまさにたどろうとしているのである。私が申し上げたいのは利益率だ。特に営業利益率、これをどうやって改善していくのか、をまず第一に考えるべき事であろう。アメリカ、特に白人系のクリーニング店では営業利益率15%以上を常に意識しているそうだが、日本のビジネスモデルからするとかなり難しい設定になるだろう。ただ、今まで2〜3%の営業利益ならば5%以上を設定するのも良い。6〜7%を出しているのであれば10%以上を目指す、という感じで良いと思う。いずれにしても今までの利益率以上を目指す政策をまとめることが生き残りの一番のベースになると思う。その利益率を出すために価格の再設定が必要なのか?もしくは工場の原価を落とす努力が必要なのか?店舗などの営業経費の削減が必要か?様々な分野での改善が必要になると思われる。
しかし基本的に変わらないことは集める洋服である。どんなに靴やワッシュ&フォールドをやったとしてもそれらが会社の売上の根幹になる事はあり得ない。やはりワイシャツ、ズボン、ジャケットを如何に集めて利益を出すか?を考えなくてはならないのだ。売上が減っていく中で売上を増やすセールをかけても本当に大丈夫か?と前述したとおりなので、この時期に一番力を入れるべきは「工場経費の削減」ではないか?と考える。もはや戻らないだろうボリュームを夢見ていてもその夢から覚めることはまずないだろう。
ならばこの時代にあった工場作りを再定義してみるのが良いと思う。ただ、一気に全てをやることはできないので順番にやっていけば良いと思う。私は一番やりやすいのはワイシャツと思う。何故ならばアメリカの縮小時代で彼らが取った対策が参考にできるからだ。特にフジ型を使用している工場はすぐに経費計算を始めた方が良い。そこで多少の投資金額が必要としても最終的に近い将来でプラスに転じる事は簡単に理解出来るだろう。ただ、そこで将来のボリュームが想定通り集まり続けるかどうか?を営業サイドとしっかり確認し、確固たる営業戦略を作って行けば良いのだと考える。
日本がアメリカのたどった道と全く同じ道になるとは思えない。しかし、クリーニング業がアメリカのようになっていく傾向は間違いないと思う。そんな事を考えて営業利益率をどのくらいに設定するのか?そしてどうやって目標数字を目指すのか?をしっかり組み立ててもらえると明るい未来が徐々に見えてくるのではないかと思う。ただどんな世の中になっていくのか、は誰もがわからない中で決断をしなければならないわけだから経営者の皆さんのご苦労は本当に計り知れない。しかし決断できない会社は衰退していくので何らかの決断をして会社を前に動かしてもらいたいと心から願う。