IDC国際クリーニング会議(International Drycleaners Congress)が2018年以来、7年ぶりに開催された。今回は9月10日から12日までの3日間の日程でアメリカ・シカゴにて開催された。2020年にオーストラリア・メルボルンで行われる予定だったが、コロナ発生により中止を余儀なくされた。人々は「もはやIDCは行われないだろう」と考えていたようで、今回の開催についてはびっくりした人も多かったと聞く。
現在の世の中でIDCを開催することはとても難しくなってきている。何故ならばクリーニング業にはステージというものが存在するからだ。現在、理解できているだけでも3つのステージがあり、アメリカやヨーロッパはその3つのステージをすでに通り抜け、新しいステージに突入しようとしている。そのステージをなんと命名すればいいのかわからないが…。ちなみに第一次を「業界の創生期」、第二次を「業界の隆盛期」、第三次を「業界の成熟期」としている。
第一次の「業界の創生期」とはクリーニング業の始まりである。クリーニング業はそもそも富裕層のために存在する業である。スーツを着こなしてビジネスの場に赴いたり、ドレスを身にまとい社交界に参加したり、という上流階級の人々が着ている洋服をクリーニングすることからこの業は始まる。そして第二次の「業界の隆盛期」というのは富裕層のような生活に憧れ、会社が社員にドレスコードを義務付けたりすることでクリーニング業界が一気に大衆化するステージを言う。そして第三次の「業界の成熟期」というのは一種の衰退を迎えることを言う。段々とドレスコードが薄れ、一般社員はそれまでのスーツやネクタイからカジュアルに変わってくるステージを言う。このように第一次から第三次まではっきりと見えるステージがあるのだ。
ステージの移り変わりには国力が必要だ。経済的に強い国や地域でなければステージは進まない。ちなみに東南アジア、例えばタイやインドネシアには残念ながらステージが変わることはない。国力が弱いので人々は高い洋服を着て仕事に出かけるという習慣ができないのだ。先日のブログで私が東欧を旅したことを記した。東欧もまた第一次から第二次に移行できない地域と言えるだろう。クリーニング業には強い国力が必要なのである。日本は現在、第三次の「業界の成熟期」の真っ只中といえる。韓国も同様である。中国は第二次の「業界の隆盛期」に突入しようとしている。前述の通り、東南アジアや東欧などはまだステージが存在しない。一方で、アメリカやヨーロッパは第三次を終了し、第四次?を迎えていると考える。第四次とは何?と言われても残念ながら私にもわからない。
今まではこれだけステージが違う地域から参加者が来ても成り立つ理由があった。それは「ドライクリーニング」という手段である。昔の洋服は天然素材で構成されていた。綿を除き、すべての素材は水で洗うと「縮み」という問題を抱えてしまうのでどのステージにおいてもドライクリーニングという技術を必要としていた。それが国際クリーニング会議を開催できる大きな理由になっていたのだ。しかし、これだけポリエステル混紡素材が台頭してくると「ドライクリーニング不要論」が浮上してくる。これを機に多くのクリーニング店は需要減を余儀なくされ、窮地に立たされているのが現状なのだ。この状況を今後どのようにしていくのか?がこれからの話しになっていくと考えられる。

さて、今回はシカゴという場所を選んだのだが、私にとってはとても都合の良い場所である。何故ならば自社であるSankosha USAの事務所があるからだ。JCPCのアメリカツアーを何度か参加している人々からするとシカゴに何度も来ているのでそれは申し訳なく思っているが…、今回はよく知っている場所を使ったほうが都合が良い、ということで私が日頃使っているホテルを利用した。実際にIDCを企画するのは一人では無理と思う。やることが膨大だからだ。しかし、今回に限って人にあれこれ依頼することはできそうもない。話が急すぎることと「とにかくまだ存続していることを世の中に知らしめたい」というTebbs氏からの依頼だったので私一人で企画した。私はそれまでにドライクリーニングから水洗いへの転換を推奨していた。この企画により、具体的に水洗いに特化しているクリーニング店がどれだけあるのか?を調べるきっかけにもなった。同時にアメリカを始めとして世界で起こっていることは物価上昇と労働賃の上昇である。故に「工場内や店舗の省人力化」が今後のポイントになると思い、これらを今回の会議の主題にしてみた。
今回、話をしてもらったのは
1. 洗濯代行(WDF: Wash Dry Fold)で新しいビジネスモデルを作っているPuritan CleanersのNorman Way氏

- イタリアMetalprogettiの販売活動をしながらクリーニング業をやっているSparkle CleanersのHeath Bolin氏

Heath Bolin氏。シャイな喋り方だったけど知識豊かで現地人から多くの質問があった。
3.洗濯代行業を通じて自社のビジネスモデルを変化し続けさせているシカゴで大規模チェーンをやっているCD One Price CleanersのGMであるDaniel Fitzgerald氏とチーム

この3本立てで会を催してみた。日本からはJCPCツアーの一環として40名の参加者に恵まれた。しかし、残りは全部で30名ほどなのであまり多くは集まらなかった。無理もない、8月下旬にフロリダにて世界で一番大きい展示会であるClean Showが行われたばかりだからだ。ちょっとタイミングが悪すぎた。しかし今回は行うことに価値あり、と言われていたのでこれは仕方ない。とは言いながら、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、フィリピン、中国とかなり多くの国から来てくれた。かろうじてIDCになったのではないか、といえる。



会議についての詳細はここでは述べないが、参加者はそれなりに感じる部分があったのではないかと思う。今回のテーマは「水洗いのビジネスモデル」と「オートメーション」にした。クリーニングには時代とともにステージが存在しているが、この2つのトピックスはアメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、そして極東地域に当てはまる。初日はNorman Way氏とHeath Bolin氏の二人に話をしてもらった。日本では洗濯代行についてはまだまだ取り入れるモデルではないが、今後必要になってくるだろうと予想はしている。二日目はCD One Price Cleanersの話を聞いた。このCD One Priceについては話を聞いた後に訪問した彼らのお店を通じて人々は時代が変わった、もしくはこれから時代が変わる、と考えさせられることが多かったではないかと思う。それまでの工場付きの店舗、工場のない店舗、無人店舗の3つを紹介してもらったのはとても意義深い。特にMetalprogettiの設備が入った無人店舗はなかなかのものだと思う。ここまで無人で受付や受け渡しができるならば無人も受け入れられるようになると思う。8月にオーランドで訪問したOrlando Cleanersの無人店舗もMetalprogettiだった。なかなか素晴らしいものだと思う。私は日本でもこのような無人店舗が紹介されることになれば導入を検討するクリーニング店が多くなると考えている。現在、日本で存在している自動は残念だが中途半端と言わざるを得ない。何故ならば店舗と工場が繋がっていないからだ。日本に足りないのはソフトウェアである。もし新しいソフトが紹介されることになれば一気に傾注する可能性がある。日本の業界は確実にアメリカの後を歩いていると確信できる。

会議は2泊3日でチーム日本は3日目をスキップし、そのままミシガン州グランドラピッズまで移動したので最終日のプログラムには参加できなかったが、参加した人々の話を聞いた限りではとても有意義なひとときを過ごせた、との報告をもらっている。急遽開催したIDCにしてはまずまずの出来栄えだったのではないか、と思う。簡単にビデオにまとめてあるので興味のある方は以下のURLから状況を確認してもらえると幸いである。
ということで、次回の開催は2027年で開催場所は名古屋になった。次回はかなり大掛かりな会議になると予想する。最大で300名は入れる会場にしているが、実際は最大250名が現実であろう。多くの人々に参加してもらえるように会議の詳細や費用などを魅力的にしなければならない。これから準備委員会を発足させる予定でいる。多くの皆様に参加していただけるようにしっかりやっていきたいと思う。
