テキサスを訪問して

4月10日から私は今年2回目のアメリカ出張にでかけた。目的は6月に実施するJCPC日本クリーニング生産性協議会主催のアメリカ視察ツアーの最終打合せをするためである。表向きはそういうことだが、裏の目的は市場調査である。アメリカでいくつか興味を持っている市場があるのだが、その一つはテキサス州である。私が初めてテキサス州を訪問したときはとにかくびっくりすることばかりだった。一番驚いたのはジーンズがたくさん集まることだった。何故ここまでジーンズが集まるのか、というと天然ノリ(Starch)を使って洗濯し、綿プレス(Hot Head Press)を使ってハードプレスをするのだ。出来上がったジーンズはあまりにも硬く、ズボンがそのまま立ってしまうほどなのだ。これは昔からのカウボーイのファッションであり、ノリを使ったクリーニングをすることで汚れがつきにくくなり洗濯しやすくなる、という昔からの伝統を維持していたのだ。しかし時代は変わった。このコロナで本当に変わった。テキサス州がこの状況でどのように変わったのか?を見てきた。

私が訪問したのはテキサス州サンアントニオ。ここにはSankoshaにとってとても心強い代理店がいる。それがMustang Enterpriseという会社である。社長のSteven Dubinskiとご子息のAndrew Dubinskiが地域のサポートをしてくれている。

Mustangの事務所。
Dubinski一家の愛犬も一緒にお出迎え!


私が空港に到着したのは正午。すぐに迎えに来てくれて軽い昼食に連れて行ってくれた。食事を済ませた後に彼らの事務所を訪問、そこでテキサス州について色々お話しを頂いた。テキサス州は広い!彼らは最大で6時間も運転する先までカバーしている。日本とはそのスケールが違う。やはりテキサス州でも個人店を中心に廃業が進んでいるとのことだった。確かに町を車で走っていても昔ながらのクリーニング店があまり見られなくなっていた。

 

Dutch Boy Cleaners

 

Oak Park Cleaners

 

Culpepper Cleaners


今回私が訪問したのはDutch Boy Cleaners、Oak Park Cleaners、Culpepper Cleanersの3件だった。それぞれのビジネスモデルについてはあまり詳しくお知らせできないが各社しっかり売り上げているようだった。ただ状況はコロナ前と比べて大きく変わった。その代表例はワイシャツの減少だった。どこのお店でもコロナ前の半分くらいしか集まらなくなっているとのことだった。コロナ禍で生活スタイルが完全に変わってしまったのだろう。この傾向は今後も続くと見ており、もはやコロナ前のワイシャツ数量に戻ることはないだろう、という悲観的な見方だった。
それぞれの工場も訪問した。工場に入って最初にびっくりしたことはHOYTというブランドの第二石油で行うドライクリーニング機が未だに存在していることだ。この機械は訪問した3件とも使っていた。日本ではおなじみのクリーニング方法であるが、アメリカではもはや使用禁止になっている州がほとんどなのだがテキサス州では未だに使用を認められているらしい。

第二石油の洗濯機。60年代の機械。
第二石油の乾燥機。日本と違って回収去れた液剤は自動で隣の洗濯機に戻る。


そしてテキサス州独特の綿プレスのラインがあった。そしてジーンズのハードプレスも健在だった。これらの綿プレスを使ってジーンズをプレスする。しかも1回のプレス時間は90秒とか120秒、それをトッパー部や裾部をそれぞれプレスするのだからかなりの時間がかかるのだ。写真のように1ラインで6台も8台もあるのだが、実はこれらを一人で作業しているのだ。プレス時間が長いので多くの機械をセッティングできる、というわけだ。

テキサスでは当たり前の綿プレスのセット。これでジーンズをプレスする。

 

出来上がったジーンズ。見よ!この硬さ!!

 

こんな工程でやっているのに10年以上前はこのジーンズの価格が2ドルだったり3ドルだった事を思い出す。当時は「こんな値段で儲かるのだろうか?」と思ったものだ。それが今回訪問したクリーニング店では平均7ドルから8ドルくらいだった。物価や人件費の高騰?色々考えられる原因はあるが、ここまで値段が上がったことに安堵感がある。このくらいなら多少は儲かるだろうと思った。
ただノリに関してもちょっと様子が違う。何が違うか、というとそのハードプレスされたズボンやワイシャツの量が少ないのだ。その代わりにソフトスターチが多くなってきているらしい。昔はノリ炊き器(Starch Cooker)で炊きあがったノリで洗濯していたが最近は液体ノリに変わってきたとのことだ。そこには現代人ならではの傾向があるように見える。昔の人々はパリパリの仕上がりを心地よいと考えていたようだが、現代人はそのように考えていない。この傾向は日本でも同じである。「パリっと仕上がっている」という感覚が現代では「ゴワゴワしている」という感覚に変わっており、基本的にソフト仕上げを求める人々が多くなってきた。高級になればなるほどノリを使わない仕上げになってきており、この傾向にはかなりびっくりした。ハードスターチの品質はまさにカウボーイ品質といえたが、今日のテキサス人は他の大都市と変わらない傾向になってきたようだ。

このワイシャツはノリなしだった。
生地構成を見て納得。やはりポリ混紡素材だった。

 

もう一つびっくりした事があった。それはワイシャツが減った分、ポロシャツ、Tシャツ、ブラウスなどその他のシャツ類が増えていることだ。日本にはなかなかない傾向だ。どうして集まるのか?と聞いてみると「アメリカ人は怠惰だからじゃない?あまり家庭で勤勉にやられちゃうと我々の仕事は減るからね。我々としてはありがたい。」という答えだった。純粋に羨ましいと思った。同時にこのマーケットでも我々のノンプレスフィニッシャーが活躍できる可能性を見出してしまった。ノンプレスは残念ながらノリを使った洋服をきれいに仕上げることはできない。あくまでもポリ混紡素材を柔らかく仕上げる事で効果を発揮する機械なのだ。テキサスではあまり活躍できることはないだろう、と思っていたのだがその予想は完全に裏切られた。やはり現地を訪問しないとわからないことは多いと改めて実感した。

たった1泊2日の滞在ではあったが色々学べたひとときだった。今回はサンアントニオのダウンタウンであるRiver Walkというエリアに泊まった。作られた川なのだがその川沿いに多くの飲食店が立ち並んでおり一つの観光地になっていた。その川沿いのレストランでDubinski一家と夕食を取りながらいろいろな話ができたのもとても良かった。今度はダラスやヒューストンなども訪問してみたいと思った。百聞は一見にしかず!今回もこれに尽きる!!

River WalkのほとりのレストランでDubinski一族とひとときを楽しんだ!

5年ぶりの香港

3月28日、久しぶりに香港を訪問した。今回は学校が春休みということもあって家内と子供2人がついてきた。私が昼間仕事している間、家族は近くでショッピングや観光をしている。そして夕方に合流して一緒に食事をする、というスケジュールだ。とは言いながら夜は必ずお客様と一緒に食事をすることになるので多少は外交のお手伝いをしてもらわなければならない。特に最終の晩は香港ランドリー協会の総会に招待を受けている。一部家族にも仕事をしてもらうこととなっている。本来は末っ子も一緒に行くはずだったのだが大切な行事がこの旅行にかぶっていたことが出発の2日前くらいに判明したので彼だけお留守番ということになってしまった。彼もすでに中学2年生になるので4日間くらい一人である程度はできるだろう、ということであまり心配はしなかったが…。

羽田出発時の家族写真。家族は初めての香港もあってとてもウキウキ。

 

香港のホテルについたら中華圏の営業マンである張課長がすでに中国から先に到着していた。28日から30日までの3日間しっかり二人で活動することにしていた。ちなみに今回訪問したところは恒隆白洋舎、マカオのランドリー3件、Jeeves香港、そして香港のランドリー2件だった。クリーニングの変化についてはとても興味あるところであるが、それ以上に香港やマカオの政治経済事情も同時に気になるところであった。

香港は思ったほど変化はなさそうに見えた。大きく変わったのは為替レートだろうか。5〜6年前に日本の空港で換金したときのレートはおおよそ13円だったが今回は19円とかなり香港ドル高になっている。だから我々日本人からするとおよそ50%ほど価格が高く見えてしまうのだ。しかし物価そのものはそこまで上がっているようには感じなかった。

今回の旅で一番印象に残ったことは香港に来る人が変わったことだ。昔は欧米人がかなり多い印象であったが今回は中国人だらけだった。しかも団体旅行で来ている中国人のグループが多いことが印象的だった。例えば中国につながっている電車やバス、フェリーの乗り場には想像を絶する中国人の数で埋め尽くされていた。現地人から聞いた話だとその中国からの団体観光客もあまりお金のない人々だそうだ。飛行機を利用するようなところだとお金がかかるので香港だと電車やバスで行くことができるから安い、ということらしい。だから安いホテルばかりが一杯で高いホテルはあまり人がいない、ということらしい。

さて、それではクリーニング業界の話をしてみよう。今回、一番最初に訪問したのは恒隆白洋舎だった。到着した日にすぐに訪問した。ここは日本の白洋舎と香港の恒隆という会社で合弁で開いたクリーニング店だが実質白洋舎の運営になっている。すでに売上はコロナ前以上になっているとのことで極めて順調だとのお話しを頂いた。やはり香港はある程度ドライクリーニング衣類が集まるようで結構なことである。出来上がったお洋服を見たときにちょっと気になったことがあった。洋服を被しているフィルムである。昔よりも厚めの光沢のあるフィルムを採用していた。やはりこういうことできれいにした洋服をよりきれいに魅せる工夫をしている。無駄と思う方もいるかも知れないが私はそう思わない。価格もそれなりに取っているのでこのようなプレゼンテーションはとても大切と思う。

恒隆白洋舎の皆さんと。久しぶりの再会で話も弾む!

 

Jeevesもかなり堅調にやっているように見えた。コロナ禍の影響からやはり厳しい時期はあったものの店舗の統廃合を行ったりして収支を合わせることはできたと言う。売上はすっかりコロナ前の水準、それ以上に戻っているとのことでそれに店舗の統廃合を行ったことで利益率はコロナ前よりも高まったとのことだ。なんと言ってもJeevesの強みは洋服のクリーニングに関わらずバッグや絨毯などのクリーニング、革製品の色の補正などあるお客様が要望することを幅広く対応する力がある、ということだ。一つひとつを丁寧に対応するために生産性は決して高くはないがとてもデリケートなものでもしっかり対応する力があるのが良い。

Jeevesの皆さんとChina Clubにて。久しぶりのクラブで良い時間を過ごせた。
Jeevesの店舗。訪問時はお客様が途絶えることがなかった。支持層はしっかりいることが伺える。
シャネルの社員ユニフォームもクリーニングしている。さすがブランド同士!

 

しかしクリーニング業界は決して大きくない。むしろランドリーの方が熾烈な競争を繰り広げている。香港は日本以上に値段が重い。なかなか値上げを容認してくれないらしい。香港にはランドリー工場が数多く存在し、そのシェア争いがとても激しい。このご時世なのでできれば値上げをしたいところだろう。先程述べたように安いホテルほど満杯な状態である。この価格に敏感な人々が香港に溢れているわけだからホテルリネンの値段もそう簡単に上がらない。結果としてとても厳しい会社運営を強いられている現状がある。これはお隣のマカオでも同じような事が言える。香港で2社、マカオで3社のランドリー工場を訪問したがどちらでもしっかり収益を上げているところは工場がとても整然としており、工場内がとても明るかった。一方でいかにも儲かっていなさそうなところは工場が汚い、機械メンテナンスが全くできていない、モノで溢れている、工場内がとても暗いなど共通しているところがある。

工場をきれいにするのは経営者ではない、従業員である。しかし従業員が工場を清潔にするためには清潔にしたい、と思う心が必要である。その心を醸成するためには社員による愛社精神が必要である。愛社精神を醸成するためには給与などの待遇をしっかりする必要がある。給与を十分に提供するためには大きな利益が必要である。利益を多くいただくためには販売価格やコスト管理をしっかりしなければならない。販売価格においてはお客様に納得してもらうために商品の魅力度や品質がなければ容認してくれない。これをすべてデザインするのはまさに経営者の仕事だと思う。経営者が一緒になって現場で作業していると何も見えなくなってしまう。良い経営ができているところはそういうサイクルがしっかりしているのだろう、と外からは容易に見て取ることができる。

あるランドリー工場のうちの機械。もはや作業できる状況にない。管理の問題と言わざるを得ない。
別の工場の状態。本来あるべきはこれ。誰もがこういう状況で仕事をしたいはず。

どこの国に行っても基本的に考えることは一緒だと改めて確信する。販売するものはそれぞれ違うが、その商品やサービスに魅力はあるか?それがいくらだったら使ってもらえるのか?その金額で利益は出るのか?その利益で従業員に十分な報酬を払うことができるのか?簡単なことではないが、このサイクルが確立している企業こそ永続する企業なのだろう。香港の事情はコロナ前と比べて変化はあったが価格を上げられている企業がとても健康的である、というのが今回の印象だった。我々メーカーはもっと工場の自動化に貢献できる機械を作らなければ!

最後に、本当に久しぶりの再会がたくさんあった。商売がうまく行っているかどうか、はさておいても皆さんがこの業界で相変わらず切磋琢磨しているのを見るとどうやったらもっと魅力的な業界になるのか?を考えていかなければならない。

ランドリー協会の晩餐会。中央が新会長で我々のお客様。めでたい!
子供たちも外交活動に寄与してくれていた。こういうのはありがたい。
何年も親交のあるChangさんと。元気そうで本当に良かった!