イギリスの展示会

4月24日、私は4年ぶりのイギリス展示会に参加した。コロナ禍での海外初の展示会。一体どうなるのだろう?と思って会場にやってきた。会場はロンドン西部の郊外にあるAscot。イギリスで一番大きな競馬場である。日本でいったら府中競馬場だろうか・・・。やはりイギリスとなると王室が競馬を楽しむ習慣があるので会場にはいたるところに王冠がシンボルとしてついている。

イギリス最大の競馬場Ascot。こう言う場所での展示会も面白い!
三幸社のブース。新型シングルが全面に展示された。

 

今回の展示会では日本で発売した高速型シングルを新製品として紹介する事となった。もちろん、ボディサイズはイギリス用になっている。しかしこの大きさが実際は日本モデルのように俊敏に動かない。どうしてもコテが重いのだ。それは仕方がない。だとしてもこちらで60枚/時を越える生産性をたたき出すことはできる。それまでのシングルだと40枚上がれば十分と言われているのだから。ここにイギリスのワイシャツと日本のワイシャツの縫製の差がある。
イギリスのワイシャツで難しいのは前たて(Front Placket)に芯地が入ってなく、生地だけが織り込まれているのが多い。結果として裏側がミシンで縫製されていないので前たてのセットがとても難しいのだ。誰もがその部分をとても丁寧にセットする事になってしまう(私もイギリスのワイシャツをセットするときは同じ状況になる)ので時間がかかってしまうわけだ。
しかし最新モデルではそれまでのモデルの倍の速さでワイシャツを乾かしてしまう力がある。最近のワイシャツであれば10秒で仕上がる。通常であれば25秒はかかるだろうか・・・。それが半分以下の時間で仕上がってしまうわけだから生産性が上がるのは明白だ!いくら前たて(Front Placket)に時間がかかってもプレス時間で相当の生産性が上がる。問題はオペレーターのスピードである。こればかりはお店に託さなければならない。ここら辺がお客様との話し合いのポイントになるだろう。

10時に展示会がスタートした。しかし待てど待てど来場者が全くない。12時を過ぎた。2時間経っている。しかし全く誰も来ないのだ。流石に焦った。「この展示会は大失敗か?」と。しかし午後1時を境に多くの人々が来場してきた。正直ホッとした。結局、この日は最後まで来場者に恵まれた日となり、我々もとても忙しくする事ができた。

多くのお客様に来場いただいた。本当にホッとした。


やはり一番の目玉はワイシャツ仕上げ機である。この展示会場で我々以外でワイシャツ仕上げ機を出していたのはTrevilとBarbantiというイタリアのメーカーとBoweというドイツのメーカーである。Trevilはどうやらイタリアの巨大メーカーであるPonyの製品をOEMしている様な感じであった。詳細は定かではないが作り方、機械の動き方を見てもかなり似ているので間違いないだろう。Barbantiは昔からプレスする機械ではなく膨らます事で仕上げる機械となっている。ドイツのVeitをご存じの皆さんであれば想像は容易につくであろう。1985年くらいにVeitがBarbantiとOEM契約をしてVeitのワイシャツ仕上げ機をつくるようになってからBarbantiのワイシャツ技術が急速に発展したと言われている。ドイツは昔からワイシャツはプレスするモノではなく膨らまして乾かしながらソフトに仕上げる習慣がある。これは現在も強く支持されている。これがイタリアにもそのまま反映されている。
そしてBoweであるが、このワイシャツ機は我々がつくっているOEM機なのだ。今回、初めて自社ブランド以外の自社機を同じ展示会で出展することとなった。結果として、SankoshaブランドとBoweブランドのどっちのワイシャツ機の方が良いか?というYouTubeまで出現したのだからびっくりである。

https://youtu.be/nf1kpf1mp0M

イギリスはワイシャツ王国である。故にアメリカの文化がそのまま移植されていてアメリカと同じようなプレス文化がある。しかしドイツはVeitがつくった文化がそのまま色濃く残っており、プレスよりは膨らます文化が残っている。要はこの戦いなのだ。
今回Boweに提供しているモデルは昔、三幸社が1980年代につくったCN-550という前はプレスするのだが後ろはプレスしない、というハイブリッド型である。これを復刻してドイツバージョンにしたのだ。ちなみに最新のドイツ型はタックプレスも外してこよなく膨らます形に近くしている。しかし、膨らますだけでは時間がかかり生産性がとても低い。故に前だけは全面プレスにして前たて(Front Placket)やポケットなどはしっかり押してしまい、残りの部分は膨らまして乾かす、というスタイルを取っている。

結果としてはやはりSankoshaブランドが一番強そうだった。現在はSankoshaブランドがイギリスではトップブランドになっている、何よりも一番信頼される要因になるのは「耐久性」のようだ。イタリア製はどうも故障しやすい。これは使っている部品のせいだと思われるが1年もしないうちに壊れてしまうのは問題である。一方でSankosha製だとまず5年は壊れない。日本の皆さんからすると当たり前の話しかもしれないが海外ではこれは結構びっくりされる話しなのだ。壊れずに使い続けることができるのはお客様にとってとてもありがたい話しである。故にSankosha製はいつも話題の中心になるのであるが、一方で価格も安くない。そこに今回のBoweブランドのワイシャツ機が新製品として入ってきているのでこれからのマーケットがどの要に反応していくのか、がとても楽しみである。

イギリスのワイシャツは今までアメリカと同じような形であったが最近、どうもスリムカットのワイシャツがトレンドになってきている。それまで我々はアメリカモデルを基準にしたヨーロッパ仕様を販売してきたのだが、最近はそのボディサイズでは綺麗に着せることが出来ないものが多くなってきているとの事だ。こうなると現在のモデルではだんだん通じなくなってくる。ここら辺を敏感にしておくことも今後の販売においては重要なポイントとなる。

初日の晩は主催者による出展者のためのレセプションが行われた。この時期にマスクなしでこの狭い空間にこれだけの人であふれる場所にいたことがなかったのでとても躊躇した。しかし誰もがこの中で楽しんでいるわけだからもう仕方がない。腹をくくって楽しむこととした。

VeitのBoris、BarbantiのRobertoと一緒に
イギリスの代理店チームParrisianneと一緒に
ドイツの薬剤メーカーSeitzのJacopoと一緒に

この展示会では本当にいろんな人と久しぶりの再会をした。それぞれがとても苦しい2年間をすごしてなんとか会社を続けて来る事ができたのだな、と思えた再会であった。しかし皆が元気で良かった。競合メーカーももちろんいたがお互いに無事であることを心から喜び合い、これからまた一緒に切磋琢磨していく事を確認しながらその時間を楽しんだ。

3年ぶりのイギリス

4月22日午前6時、私は羽田空港のターミナル3(国際線ターミナル)に来ていた。3年ぶりのイギリスに行くためだ。羽田空港の国際線ターミナルにくるのもおおよそ3年ぶりだろう。どちらかと言えば成田空港から出発する事が多い私からすると随分と来ていない感じがした。2年ぶりのアメリカ出張をしてからはや2ヶ月。こんなすぐにヨーロッパに行くとは思わなかった。今回の大きな目的はイギリスで3年ぶりに開催されるCleanExというイギリスの業界展示会に参加するためだ。業界の展示会となると多くの関係者が集まるのでとても楽しみである。職業柄、立場上、いろいろなメーカーの経営者や役職者と仲が良い。彼らがこのコロナ禍をどのように過ごしてきたのか、また現在はどんな事を考えているのか、など聞きたい事が山ほどある。展示会は情報収集の一番適した場所になるので私にとってはとても都合の良い場所となる。

まずびっくりしたのは空港の手荷物検査。もはや腕時計を外す必要はないし、PCをバッグから出す必要もない。靴を脱ぐ必要もないので大きなトレーに荷物を置くだけで良い。昔のような仰々しい検査をされずに済む手続きでこれには大きな驚きを感じた。この2年間でこういうテクノロジーも進化したんだな、と感じた。
それにしても羽田空港もまだまだ人は少ない。2ヶ月前の成田空港に比べると政府の緩和策が手に取るようにわかるほど人が動き始めているのがわかる。しかしまだまだ人の動きは鈍い。6時台ではあるが私は出国審査を終えて早速出発ターミナルの端から端まで歩いてみた。これまたびっくりした。飲食店が全く開いていない。一つだけ開いていたやきそば・お好み焼き屋さんに人が列をつくっていた。私はJALのステータスを持っているのでラウンジに行くことができたが、権利のない人々は朝食を食べる場所さえない。人が動かないと様々な弊害が生まれることを改めて感じた。

乗り込むところ。ほぼ満席のフライトだった。

 

何とも長い飛行時間だった。今回はウクライナ侵攻の問題からヨーロッパ行きはそれぞれ迂回しながら目的地に飛んでいくのだが私の乗るJL043便はなんと東周り(正確には北回りと言うらしいが)で飛んで行く。アメリカ、カナダ上空を飛んでヨーロッパに行くなんて初めての経験だ。それでもイギリスに行ける事がとても嬉しかった。

今回の飛行ルート。ヨーロッパ行きで北米上空を飛んだのは初めて!


ヒースロー空港に到着。久しぶりのJimmyとの再会、ちょくちょくZoomミーティングはしていたがやはり直接会えるのはとても嬉しい。早速本日の目的地であるBasildonに向かう。まず最初に気になったのは人々がマスクを全くしていない事だった。こちらがマスクをしていると逆に怪訝な顔をしてくる人々。もはやイギリス人のコロナとの付き合い方が日本人とは全く違う。これでは自分もコロナにかかってしまうのではないか?と不安になってしまうが郷に入れては郷に従え、と言うことでもういいや!という気持ちでマスクを外した。2日後には展示会が行われたのだがその時の夜の出展社が集うレセプションでも相当密な状況にもかかわらず誰もマスクをせずに楽しんでいる光景を目の当たりにした。日本人である私には驚き以外のなにものでもなかったが、こんな状況に接して帰ってくると日本の水際対策はちょっと過剰じゃないのかな?と感じる様になってしまうわけだから本当に注意しないといけない。
それにしても懐かしい。Jimmyの奥さんであるYvonneや娘さんであるVictoria(Parrisianneで事務をしている)とも久しぶりの再会であったが昔話で一気に盛り上がった。

Jimmyのご家族との夕食。昔話しで盛り上がった。

 

4月23日、我々は早速、展示会場に向かったのだが途中で一軒のクリーニング店を訪問した。今回のイギリス訪問目的はいくつかあったがその一つは「市場リサーチ」であった。どうせ市内を通るわけだから一つくらい寄って欲しい、とお願いしたらこのお店を選んでくれた。その選んだ先は典型的な個人経営のクリーニング店だった。ロンドンにはこのようなクリーニング店がまだ何百件と残っており、三幸社として商売になるかどうかは別としてこの典型的なお店の運営状況を確認しておきたかった。

今回訪問したTouch of Class Cleaners。


ロンドンの個人店はもはや移民系クリーニング店として認知されている。インド人もしくはパキスタン人によって運営されているのがほとんど。アメリカで言えば韓国人といった感じだ。工場の中を見せてもらうとドライ機10kg(溶剤:K4)が1台と家庭用の水洗い洗濯機が1台、スチームキャビネットが1台に40〜50年前のホフマンプレス機が2台のみである。設備の更新はドライ機だけでその他のモノはほぼ何も変えていない、という状態である。気になる入荷点数であるが平均100点/日という感じである。ワイシャツや水洗いものはあまり入ってこない。たまたま私が訪問した時はベッドシーツやデュベカバーなどの仕上げをやっていたが仕上げをウールプレス機でやっているわけだからパリッと仕上がるはずもない。ここのオーナーさんに話しを聞くと「まだまだやっていける。だからドライ機は買い換えたんだ!あまり将来は悲観していない。」と答えてくれた。やはりロンドンはまだまだスーツなどは出るのだろうか。それにしても単価がおおよそ7ポンド。それを100点集めたとして700ポンド/日。これを週6日稼働で単純に4週/月、12ヶ月で計算するとおおよそ3300万円の年商ということになる。人を1〜2名雇ってもやっていく事はできそうだが決して潤いは感じないだろう。このくらいのビジネスは昔ながらではあるが人を誰も雇わずに一人でやれば儲かるのかもしれない。ただ今までの流れからは全く変わっていない。ドライクリーニングを主体にしたお店運営である。これからもっと水洗いの必要性が出てきたらこのお店はどうするのだろか?いろいろな事を考えながらお店を後にした。残念ながらここロンドンでも新たな取組を始めているところはほとんどない状態であることがよくわかった。本当に世界中の業界が次をどうするか?真剣に考えなければならないステージにあると確信した。

見よ、このプレス機!軽く40年以上は経っている。これが未だに現役で活躍している。

 

展示会場に到着した。既に設置がおおよそ終了していた。今回もこの競馬場の施設を使って展示会を行う。この取組は6〜7年前から行われているのだが競馬場でやるなんてなかなかユニークである。しかし会場側からすると競馬が行われなければ全く利用価値がない施設なのでこのような展示会に使ってもらえるのは嬉しい事なのではないだろうか。今回は新型のワイシャツプレス機が海外の展示会として初めて登場する。これらをみたお客様がどんな反応を示すだろうか?明日からの展示会が楽しみだ!展示会の展望を皆で話しながらその日の夕食を楽しんだ。

チームParrisianne(イギリス)とチームZiermann(ドイツ)で楽しんだ夕食。