ニック西川社長と対談して感じた事

前回のブログにて8月の投稿をスキップする事をお知らせしていた。8月は夏休みもあり、そんなに顧客訪問など出来るはずもないからネタもないだろう、という推測の元で申し上げた事だったのだが、今回は是非皆さんにもこの考えを知ってもらいたいと思い、急遽ブログを上げることとした。

ニックというクリーニング店をご存じだろうか?玉川学園に本店があり、現在は13店舗で運営している全てユニットのクリーニング店である。社長である西川さんは現在JCPC(日本クリーニング生産性協議会)の理事長を務めている事からとても近いお付き合いをさせていただいている。ちなみに私はJCPCの常務理事でIDC国際クリーニング会議の責任者をやっている。そんな事からいろいろな事をオープンに話しをする間柄になっていて、1年に最低3回くらいは彼の事務所を訪問し、およそ1〜2時間の対談をするのが習慣となっている。私が訪問するときは必ず何らかのスイーツをお土産に持っていく。「圭介が訪問してくる=スイーツをお土産に持ってくる」ということでたまたま本部に来ている各店舗の社員さん達はささやかなご馳走を頂くことが出来ると言うわけで私のお土産には喜んでもらっているらしい。

前置きはこのくらいにしておいて、私が今回訪問した理由は「ニックが今後のクリーニング業をどのように考えているか?」を知りたかったからだ。ニックのビジネスモデルはファッションケアセレクトショップである。ファッションケアというのはお客様のファッションのお手伝いをするお店である。しかしこの夏の暑さに加えてリモートワークがクリーニング店に大きな影響を及ぼしている。人々がドライクリーニングを必要とする洋服を着ていないこの時期にどんな事を考えて商売に結びつけているのだろうか?私はそんな思いでほうもんしたのだが、まずお店に到着したらすぐに目についたのが立て看板で「シャツ類190円」という宣伝だった。正直びっくりした。ニックでさえもこういうシャツ類を集めないとやっていけない、と思っているのだろうか・・・。私は事務所を通って社長室を訪問した。そしていつものようにスイーツを頂きながら対談がスタートした。

話しをしていくうちにやはり現在の状況に寄りそった経営になっていることがわかった。私が予想していたようにドライクリーニング主体で集めようと思っても集まらない傾向を社長は既に結論づけており、衛生業としてのクリーニングに様変わりしようとしていた。とても面白い発想だと思った。現在はコロナで売上が落ちているのだ。コロナさえなければ昔の通りの売上を上げることはできていただろう。それができなくなった原因に直結するソリューションを作った、と言うわけだ。ニックは自社が取引をしているウィルスブロック剤メーカーで生産しているウィルスブロック剤を利用した洗浄でお客様に安全で安心なファッションライフを送ってもらいたい、という方向性になっているようだ。ランドリーばかりでなくドライ衣類においてもウェットクリーニングにこのウィルスブロック剤を添付しているところが面白い。ポイントはコロナ禍においてこの「ウィルスブロック剤」をネタにしている事がとても斬新だった。流石としか言いようがない。具体的なメニューについては申し訳ないが彼らも考えながらやっているのでこちらで公表することはできない。ただできるだけ全てのお客様にウィルスブロック剤付きの洗濯方法を提供しようとしている事は他社との大きな差別化になる事は間違いなさそうだ。

一方でシャツ類を190円で提供している事についてはこれまた時代の流れに沿って積極的に集めようと強く決心している社長の姿があった。社長によると190円でも利益は出せる、とのことでこれはある意味驚きである。何故ならばニックにはシャツ類を手早く仕上げる設備はないからだ。しかし190円で提供する理由は「一つの宣伝ネタ」として使っているように見える。事情を聞いてみると「やはりこんな暑い夏でジャケットを着ている人などいない。我々も新しい売上を作りにいかないと売上は落ちるばかり。」とおっしゃる。私も兼ねてからシャツ類の取り込みについてはかなり積極的にやるべきだ、と述べていたが、ニックではそれを実行していたのだ。やはり考える事は似ているな、と思った。

話題は商材から売り出し方法に変わっていった。皆さんはマズローの5段階欲求説をご存じだろうか?一番下から「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」で構成されており、自己実現欲求についてはかなり志の高い人々が求める欲求となる。先ほどニックではウイルスブロック剤を利用したクリーニングを行っている、と記述したが、このウイルスブロック剤を使ったクリーニングはこの5段階欲求説でみると下から2番目の「安全欲求」にあたる。価格はこの欲求説の上の方に行けば行くほど消費者が喜んで支払ってくれる事になると考えて良い。そう考えると安心、安全のクリーニングという枠組みだけでは会社を満足いく利益体質にしていく事は難しいと考えているようだ。上から2番目の承認欲求にまでたどり着くためにはお店の風格やそのフロントに立つ店員さんの人間力などが必要となってくるわけだ。

例えば最近のレストランで「むさしの森珈琲」というブランドがある。私も先日初めて朝食で利用したのだが、そこで新しい経験をした。同じファミレスなのだがジョナサンやデニーズのようなレストランで朝食を摂るとおおよそ単価は700円くらいだろうか、ドリンクは飲み放題だがセルフサービスである。一方、むさしの森珈琲では店員さんがおかわりのコーヒーを入れたてで新しいカップに入れて持ってきてくれる。店内のデザイン、テーブルと椅子、使っている食器、メニュー表の写真に至るまでとても顧客の志向が取り入れられているのがよくわかる。結果としていろいろ頼むと1000円以上の金額になってしまい、割高なのだがどういうわけか満足度が高い。ここからわかる解釈は、人々は「雰囲気の良い空間でリッチな朝食を摂りたい」と思っているようだ。人々によってはそこで新聞を読んだり、家族やカップルで談笑したり、ケータイをいじりながら朝食を摂るなど様々なスタイルがあるが、美味しい朝食を雰囲気の良い場所で摂ることを求めているのだ。人々はもはや昔ながらのファミレスには行かない。そこで仮に美味しい食事が摂れたとしても満足度はもはや高くならないのだ。

これをクリーニングに当てはめていると時代に合わせた店舗デザインはどうしても必要になってくるのだ。西川社長は「クリーニングを利用している人をカッコ良くしたい。クリーニングのバッグを持って歩いていると、それを見た人が「あの人カッコイイね!」とつぶやいてくれるようなそんなクリーニング利用者にしていきたい!」というのだ。そのためにはお店がカッコ良くなければならないし、利用客の満足度は最終的に店員さんがつくるものだから彼らの接客品質を高めたい、という訳だ。ここら辺が全て合わさって総合的な満足度を獲得する事ができる。結果としてその単価が多少高くても人々は喜んで払ってくれる。そのように西川社長は考えている。本当に深い話しだと思った。

今回の話しでお店の外観を変えれば良い、という訳ではない。まずは自社の今後進むべき方向性を確立する事が大切なのではないだろうか?「自分は〜で生きていく!」と宣言するか、のように。そのために具体的に工場や店舗をどのように改善していくのか?を考えるべきと思う。

これからの時代は容易に生き残る事ができないと感じる。ただ単にやっていれば食っていける世の中ではないのだ。ならば何をやっていくのか?という明確な方向性をここで出し、そしてその方向性に沿った投資をするべきではないか?それを怠るならばこれから生き残る事は難しいだろう。

読者の今後の熟慮と行動に心から期待をしたい。ニックは間違いなく残る企業と私は察した。だから彼らを心から応援していきたいと思った訪問だった。